..はじめの一歩..

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それは一週間前の出来事。



「名無し。この書類を職員室まで運んでおいてくれ」


「えぇー!先生!目の前のか弱い美女が目に入りませんか!?この量一人じゃキツいですよ!」


「美女はさておき、名無し。この前も授業で寝てい

「先生!!この書類は私にお任せ下さい★責任を持って運んでおきます!」


「よろしい」



笑顔で立ち去る先生。

目の前に積まれる書類の山。


私はため息を吐き、しぶしぶ書類を持ち上げた。


あ、意外と重くないかも。

さっさと運んで、買い物に出掛けよう。


そう思って、職員室へと向かっていた。


しかし

「ーーっ!」


ドサッ!!!


あっ、と思ったときにはもう地面に転んでいた。

書類で足下の段差が見えなかったのだ。


慌てて書類をかき集める。

立ち上がろうとしたとき、右足に激痛が走った。



「いっっ!」


足を金槌で打たれるような痛みに、私は思わず顔をしかめた。

これは、ガチで痛い。



「名無しさん、こんな場所でどうしたの?」



私がうずくまっていると、タイミングよく幕之内君が現れた。


神様、仏様、幕之内君様!

書類運ぶの手伝って貰おう


不思議そうな顔をしている幕之内君。私は大きく息を吸った。



「幕之内君!書類を運ぶの手伝って欲しいんだ!」


「そんなに必死にお願いしなくても・・・うん。手伝うよ」



よいしょ。と書類を軽く持ち上げる彼。

一向に立ち上がれない私を見て、幕之内君は察したのか慌てて書類を置いた。



「名無しさん!足捻ったの!?」


「えと・・・」


「早く冷やさなきゃ」



大丈夫、と言おうとした時には身体が持ち上げられていた。

おんぶというか。



「あ、手を離すからちゃんと捕まっててね」


「え、あ、はい。って、ガチすか」



腕力だけでしがみつけと?


幕之内君は私を背負い、もう一度書類を持ち上げて歩み出した。


私はとりあえず、落とされないようにしがみつく事でいっぱいだった。




ドクン




ドクン





「(あ、幕之内君って意外と逞しいんだ)」




職員室に書類を置いて、今度は私をしっかり支え、保健室まで運ばれる。


背中から降ろされるとき、温かさが名残惜しいと感じた。



「湿布を貼って、はい。これで冷やして」


袋に入った氷を渡される。


「さすが幕之内君、手際良いね」


「あんまり自信持って言えないけど、毎回のように怪我してるからなぁ。でもこの捻挫はちゃんと見て貰った方が良いかも」


「ん、分かった。ありがとう!」


「どういたしまして」



へにゃっと笑う彼の顔を見て、顔に熱が集まるのを感じた。



「ー!!」



ドクン、




あぁ、まただ。


この時から私は彼を避けるようになった。










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