..はじめの一歩..
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そんなこんなで、幕之内君に明日のテスト対策をして貰うことになりました。
「あら、一歩が女の子連れて帰ってくるなんて珍しいじゃない」
「こんにちはー。私、幕之内君のクラスメイトの名無しななしです。ちなみに、鴨川ボクシングでアルバイトもしてます!」
「あら、ななしちゃん元気が良いのね。これからも一歩をよろしくね」
幕之内君のお母さんは、ニコニコしながら幕之内君の肩をポンと小突いて奥の部屋へ入っていった。
「き、き、気にしないでね!ささ、どうぞ」
いつもながら挙動不審な幕之内君の後に続く。
何処で勉強をするか悩んだ揚げ句、すぐジムに行ける距離の幕之内君のお家にお邪魔することとなったのだ。
今日は授業数が少なく、早く終わったため、ジムの時間までは2時間ほどある。
「幕之内君の家って、釣り船屋さんだったんだね。良い筋肉してるはずだよ」
「そうかな?」
ジムの人達をいつも間近で見ていると、私も男の子に生まれたかったなってふと思うことがある。
闘ってるみんなは本当に格好良いし何より輝いている。
こう、なんて言うか・・・
「努力。友情。勝利」
「何の話!?」
拳を突き上げキリッとした表情の私に幕之内君がつっこむ。
あぁ、ジャンルが違ったか
「幕之内君、私が勉強頑張ったら何かご褒美をちょうだい」
「え」
図々しい女だな。だが、それが私!
困った顔をしている彼に、私は意地悪く笑った。
手に持っているシャーペンをカチカチならし、考える。
磯の香りと爽やかな風が心地よい。
「私がテストで80点以上取ったら、」
「取ったら?」
「鷹村さんにキスで!」
ズコー
「その何処がご褒美なの!?僕、鷹村さんに殺されちゃうよ」
派手に転ぶ幕之内君。面白い。これは実に面白いぞ。
「それか、私にちゅーね」
「!」
よーし、勉強頑張ろうっと。
恐らく50点もいかないだろう、明日のテストを思い浮かべながら。
顔を青くしたり赤くしたりして、表情が凄まじい早さで変わる幕之内君を横目に、ノートの文字を進めた。
ちょっとでも、点数があがりますように。
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