..はじめの一歩..

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「おはよー!幕之内君、昨日は大変だったね」



朝の第一声、教室に入ると同時に私はちょこんと座っている彼に声を掛けた。


彼も、急に声を掛けられたことに驚いたのか肩をビクンと揺らし、悲鳴に近い奇声を発している。



面白いな



「あ・・・名無しさん。おはよう。確かに身体中が痛いけど、ジムに通うのが楽しみで楽しみで仕方ないんだ」


「なんていうか、あー、うん。幕之内君ならたくましくやっていけそうだね」




顔は痛々しく腫れて、絆創膏だらけなのに清々しい笑顔を見せる幕之内君。


初っぱなから試合形式の打ち合いは珍しく、なおかつあの宮田君相手によく頑張ったと思う。


あの時の会長さんの嬉しそうな顔が未だに忘れられない。


そして、馬鹿真面目な彼の性格からして、鷹村さん、木村さん、青木さんにからかわれることは間違いないだろう。


ご愁傷様


これで、私は脱いじめられっ子さ!ぁ



「でも、なんで急にボクシングなの?」


「僕は弱いからさ。強くなりたいんだ」



あははと頭をかいて恥ずかしそうに笑う幕之内君。


そんな姿になんて声を掛けて良いのか分からず、先生が教室に入ってきたことで会話は終わった。




強くなりたい、か




昨日の彼のスパーリングを思い出し、私は手元のシャーペンをクルっと一回転させた。




彼はとんでもなく強くなる気がする



先生の言葉が子守歌のように聞こえ、私の意識は薄ら薄らと遠のいていった。








・・・って




「しまったぁぁあぁあ!」


「名無しさんって、ほとんど授業寝てるんだね」



うなだれている私に、帰りの仕度を終えた幕之内君が声かけてきた。

時は放課後。1日の授業はあっという間に終わったが、全く記憶にない。


私は机に突っ伏したまま、頭を抱えた。



「まさか、明日が抜き打ちテストなんて・・・授業何も聞いてなかったし、ノートも取ってないよ」


「テストがあるっていうのは、もう一週間前から言ってたけどね」


「!?」



はい。全く授業聞いておりませんでした。


というか、毎回寝てました。



次からは1分1秒でも長く起きていられるように努力します。



だから先生、どうかテストはなかったことにして下さい!(切実





「僕で良ければ教えようか?」


「か、」


「か?」


「神様ぁあーーーー!!!」


「えぇえぇぇ!?」




そんなこんなで、幕之内君に勉強を教えて貰えることになりました。








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