..はじめの一歩..

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「さて、今日もバイトバイトと」



授業が終わり、今まで同じ体勢だった身体をグイッと伸ばす。

身体が凄まじい音を立てているが、そこは気にしない。・・・うん。

机の上に散らばった教科書を鞄にしまい、私は教室を出た。


途中すれ違う友達に手を振り、勢いよく外へ出る。今日の天気は見渡す限りの晴天。

私は思わず、握った拳を青空に向けて突き出した。








一歩二歩三歩








「こんにちはー!今日も飛びきりの美女、ななしちゃんが来たよー☆」


「ああん?何処に美女がいるってんだ?」



ここは鴨川ボクシング。名前で分かる通り、ボクシングジムだ。

私はここでアルバイトをしている。まぁ、他にもバイトを掛け持ちしているのだが。



「いやですね、鷹村さん。貴方の目は節穴ですか。節穴ですね」


「そんな美女がいたら、この俺サマが目を付けない訳がないっつーの」



こんの、くそゴリラ



「いででででで」

「おめぇ、思ってることが口に出てんだよ」



筋肉ムキムキの鷹村さんに締め技を掛けられ、教室での伸び以上に身体が悲鳴を上げている。


周りのジム生も気にしない者もいれば、腹を抱えて笑っている者もいる。

 

あ、木村さんと青木さん見て見ぬ振りするのやめて下さいよ。



この状況を一刻も早く抜け出さなければ病院送りにされてしまう。


ふと、誰かに助けを求めるように目を横に向けるとバッチリと誰かと目があった。



「あー!幕之内君!」


「なんだ?知り合いか?」


「クラスメイトなんですよー。でも、え、なんで幕之内君がここに?」



鷹村さんの締め技からようやく解放された私は幕之内君の前までズイっと出た。

彼とはクラスが一緒とはいえ、あまり話したことがなかったし、話すきっかけも無かったのだ。


彼の優しくて気弱そうな(失礼)性格はボクシングとは無縁と思っていたが・・・



「俺サマがこいつを見込んで連れてきた」


「えっ鷹村さんのお墨付きですか」



しばらく状況の読み込めてない幕之内君の腕をツンツンと触ったりしていたが、正気を取り戻した幕之内君は顔を真っ赤にさせて一気に私から離れた。



「名無しさんこそ、なんでここにいるの!?」


「よくぞ聞いてくれました!私はここの鴨川ジムのマスコット的アイド いだだだだ!!!・・・・・・アルバイトしてるんだよ」



鷹村さんの締め技再発。

か弱い乙女にこの人は

とりあえず、軋む身体の痛みを我慢しつつ私はへにゃりと笑った。



「幕之内君、これからよろしくね」






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