宝箱

□八つ当たり
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「君のキッカーの恐ろしさが漸く分かったような気がするよ。」
 朝方の二時、大学の部室 赤羽の呟きは暖房をつけてもなお寒い、二月の張りつめた空気をほんの少し震わせ、蛭魔はそれを鼻で笑った。
「60ヤードマグナムは伊達じゃねえ事くれぇ、テメーならわかってんだろうが」
「キックの威力の恐ろしさは、とうに分かっているさ」
俺が言いたいのは、彼の懐の深さの事だよ。口数が少ないわけではないものの、淡々とした語り口の赤羽の声は、一々がよく響く。
 二人してノートパソコンのキーボードを軽やかに叩く姿は、ある意味奇妙だが、この最京大のアメフト部の部室ではお決まりの光景となっていた。そしてこの二人が、
「こっちの方がデータが豊富だし、第一家に帰るのが面倒くさい。」
と、この部室で寝泊まりするのもお馴染みになっていた。そんな男女の間で一度も過ちが起こっていないのは、単にお互いにそういう意味での興味が一切ないからである。それでもマネージャーのまもりが眉根をしかめるのは仕方がないことではあったが。
「俺もな、君が一人でなんでもかんでも背負い込むタイプだということくらいは分かっている。」
「だからこうやってデータの分析は全部テメーに任せてんじゃねぇか。」
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