宝箱

□お土産
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<お土産>


「お?」
「あ」

冬の夕暮れ、目指す街角の店先でムサシは見知った顔を見つけた。
順番を待つ向こうも、気づいて声をかけてきた。

「60ヤード」
「よしてくれ」

黒いニット帽から赤い耳たぶを覗かせた雲水だった。

「金剛の、あんたもたこ焼き食うのか」
「あいつが好きなんだ」

「あいつ」の顔が浮かび、ムサシは苦笑した。
目の前にいる男が金剛阿含だったら、ムサシは声をかけなかったろう。
ムサシにとって雲水の弟は、積極的に関わりたい相手ではない。
雲水はジャケットのポケットに両手を入れ、にこやかに笑っていた。

(変わったなあ…)

ムサシは雲水の隣に並んだ。
栗田やセナからいつも話に聞いている。
頼りになる同級生、優しい先輩、朗らかで厳しい炎馬大のQBだ。

「あんたの噂は聞いてるよ、泥門組が世話になる」
「うふふ。こっちはコータローからしょっちゅう聞かされてるぞ」

ああ、佐々木コータロー、あいつも足に磨きをかけているのだろうか。

「キッカーって大事だよなあ。良いキッカーのいるチームはどこも要注意だ」
「頭のいいQBってのも厄介だぜ」
「違いない」

ふふ、あはは。
客の輪が一歩小さくなる。
せわしなく盛り付ける経木の上で、湯気が陽炎になっていた。

「ヒル魔、元気か?」
「まあな」

いかつい技術者の口数は少ないが、緩めた顎が物語る。

「帰って来てるのか」
「まあな、そっちも?」
「うん」

ささやかな買い物は、それぞれへの手土産だ。
雲水の番が来ると、案の定、二皿頼んだ。
去り際に雲水が言う。

「じゃあ、ライスボウルで会おう!」
「おう!」

まったく気が早ぇよ。

(他人の事、言えねえけどな)

「俺も二つくれ」

温かい袋を提げて、ムサシは足早に帰途についた。

  *

「よう、おせーぞ糞ジジイ」

路地に入る手前に、細身の男が立っている。
寒そうに顎を埋めたファーの上で、耳のピアスがきらめいた。

「待ってたのか。先に帰ってればいいのに」
「いんだよ!」

邪険な口調と裏腹に、ヒル魔はいそいそと駆け寄った。

「ほい、これ持ってろや」
「なんだ?」
「たこ焼き」

ムサシは袋の取っ手を渡すのではなく、出させた両手にそれを乗せた。

「温けえ〜」
「ったくQBが指を冷やすな。手袋ぐらいしとけ」
「んー」

冷たい手指に熱さが沁みて、ヒル魔の顔に笑顔が零れた。
金髪のヒル魔は袋の中を覗いたりして歩を緩め、チラチラ視線を送ってくる。
ムサシは前を向いたまま、ぐいとヒル魔の手を取った。
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