ARCADIA

□巨人族の末裔と小さな姫
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デイモン国の海岸線は、切り立った崖と遠浅の岩礁、と猫の額ほどの砂浜で、手漕ぎの小舟でないと漁に出ることが出来ない。だが、デイモン国国民は、その豊かな海の幸の恵みを、十分に受けていた。
 と、五メートルをゆうに越す巨体がのっそり、と波の間から姿を表す。その背に漁師達を乗せ、大きな角に漁師達の小舟と魚の入った網を引いている。
「おつかれさま〜」
狭い砂浜をさらに狭くする、2メートル近い巨体の持ち主がにこにこ笑う。
「クリタ、助かるよ」
「モモ、ありがとう」
クリタ、と呼ばれたのは巨人族の末裔の魔獣使い。モモは彼女の使役する水牛形の魔獣、ビヒーモスだ。大抵の魔獣は海水が苦手なのだが、ビヒーモスは珍しい水陸両用の魔獣だ。
「クリタさん!」
漁船の帰還に湧く人々の間を、縫うように駆けてくる少女に、クリタも笑顔が溢れる。
「瀬那ちゃん!モンタちゃんは?」
「あ…はぐれちゃった…」
 瀬那と呼ばれた少女は、クリタに指摘され、恥ずかしそうに笑う。
「城の皆に美味しい魚、食べて貰いたいから、分けてほしいんですけど…お願いできますか?」
「勿論!姫様が持てるだけ持って帰ってください」
漁師たちの笑顔に、少女も嬉しそうに笑う。
姫、といっても瀬那は気取らない。そこら辺にいる、ごく普通の少女…より気が弱く小柄な少女だ。
「あ…待って…今開ける」だが、稀有な力の持ち主ではある。陣も呪文も無しに、友達として魔獣を呼び寄せれるのだ。
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