Novel:Black
□+ヘルフラワー+
1ページ/1ページ
糸色先生は花のようだ。クチナシの香りが漂うだけの閑静な公園のベンチにふたりきり。読んでいた書物のせいか、はたまた濃厚な芳香に酔ったのか。兎に角、ふとそう思ったのだ。
「先生」
綺麗な花には棘がある。私に触らないでという鳳仙花。とても繊細な自己防衛だ。
「はい、なんでしょう?」
鈴蘭には毒が。美しい花を咲かせるジギタリス。風に揺れるか弱き姿からは想像もつかない、内包された配糖体の作用。
「先生は、花のようですね」
「は?」
驚きのあまり開いた口はロイヤル・レッド。
すべての妖艶な魅力は人の心を甘やかに誘い、そしてゆっくりと侵蝕していく。
死の島に流れ着いた少年。
+fin+