Novel:Black

□+今日もきみのことを+
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(“いま電車乗った”……っと)


送信完了まできちんと見届けてから携帯電話を閉じて、ジーンズのポケットにしまう。こうして連絡をしておけば、アイツは逆算して迎えにきてくれるだろう。青山はそういう奴だ。

厚いガラス越しにマンションや一軒家が右から左へと流れていく。隣で喋るおばちゃんの声が耳についたと思ったら、あっという間に脳内まで侵蝕されて何を考えていたのか忘れてしまった。

がたんごとんとレールの上をはしる電車がゆっくりと目的のホームに滑り込む。逸る心に急かされながら、開いた扉から外へ出た。もう青山は待っているだろうか。瞬間、纏わりついた温い空気を飛ばす勢いで突風が吹いてきて反射的に目を細めた。



そういうのは会って聞きたいとアイツが言ったから、おれは電車に飛び乗ったんだ。



「青山ぁ!すきだー!!」


思った通り改札口で出迎えてくれた青山を見つけて叫んだ途端、コイツって瞬間移動できたのかと思うくらいの速さで近づいてきた青山に頭をグーで殴られ怒られた。
ちゃんと会って真っ先に伝えたのになあ。公共の場でそういうことを大声で叫ぶのはいけないらしい。腕を強く引かれて、足早に駅を後にする。


「そんなに怒るなよー」


真っ赤な顔が可愛いです。
そう言ったら青山はきっと、しばらく口をきいてくれなくなるから言わないけど。
大人しくずるずると腕を引っ張られたままでいると、急に青山が立ち止まった。振り向かずに俯いて小さく呟くものだから、おれは青山の正面にまわって覗き込むよう首を少し傾ける。


「……本当に芳賀ってバカだよね」
「そうだよ、おれ、青山バカだもん」
「バーカ」


へらりと笑ったおれを青山のまるい瞳がとらえて、さっきよりも幾分優しい語感が耳に響く。行くよ、と笑って青山はまた歩き出した。ふと腕の温もりがなくなっているのに気づいて、ちょっとさみしい。青山に触れられていた腕から目を離せないでいると、既に何歩も先に行ってしまった青山に強く名前を呼ばれて慌てて駆け寄った。


「ほら」


ずい、と手を差し伸べられる。面食らっているおれに、青山の視線は早くしろと訴えているみたいだ。やわらかく指を絡ませれば、前を向いた青山が微笑う気配がした。


「青山もバカだよなあ」
「芳賀のがうつったの!」


少しずつ馴染んでいく手のひらの温度。心臓が、全身が、波紋のように広がった優しい温もりにふわりと包まれた。おれって愛されてるなあ。青山の家まで続く道を辿りながら、溢れてやまないこの気持ちをどうやったら青山に伝えきれるだろうかとおれは頭を抱えるのだった。



+fin+


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