Novel:Black

□+トランキライザー+
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―――コンコン。



深夜に控え目なノック音。歩は微睡んだ意識と横たえていた体をゆるりと起こして、小さく一言返事をした。


「歩、ごめん。寝てた?」
「……まあな。」


突然点いた部屋の明かり。飛び込んできた光に目を細めながらも開いた扉を見やれば、紺色のパジャマを着て枕を手にした火澄。ぼんやりと歪む視界をクリアにと閉じた瞼の上から瞳を擦った。


「歩、一緒に寝てもええ?」
「………」
「寒いんやもん。な、ええよな?」
「……勝手にしろ…」


成人に近い男同士が同じ布団にくるまって眠るなど、端から見れば異様ではないか。しかし眠気には逆らえず口にするのも億劫になったので、くだらない、と思考を一蹴した。ぱちんとスイッチを切られて、再び真っ暗になる室内。

シーツに滑り込んできた火澄のために、少しだけ端に寄ってスペースをあけてやる。温もりのないひやりとした感覚に思わず脚を引っ込めた。


「歩、寒い…」


背に隙間もなく寄り添われて体温が浸食し、ややあって飽和する。寂しさをちらつかせながらも口にしない火澄に、歩は仕方ないなと嘆息した。


「……来いよ、火澄。」


向き直り身を寄せて抱きしめて。熱を孕んだ声音に緩やかに絆されてゆく。そっと重ねた唇からは甘い感覚が波紋した。



+fin+


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