Novel:Black

□+I'm always here+
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「お帰り、アイズ。寒かったでしょ」


上方から軽く投げ落とされた缶を、片手でぱしりと受け止める。
おしるこ、という印字を無表情で一瞥したアイズは、ジャングルジムに腰掛け、にこにこと手を振る相手にアイスブルーの瞳を向けた。


「カノン…待つなら車内で待っていろと言っただろう」
「いやあ、まさか音楽雑誌の撮影が野外だとは思わなくって。これは是非とも見学したいなと♪」


カノンの陽気な返答に、アイズは探せども見当たらぬ言葉に代えて、白く息を吐き出した。


「真っ黒なロングコートに、その綺麗な銀髪が映えていて、本当にモデルみたいだったよ!」


興奮冷めやらぬ口調で告げてから、カノンは軽やかに地上に降り立つ。
そこに立っているだけでいいから!と言われ、当の本人はその通り、ただただ切られるシャッター音を聞いていただけなのだが…
身軽に立ち上がり、少しばかり付いた砂を払うと、カノンはそれはそうと、と台詞を続けた。


「公園だというのに、子供ひとり遊んでいないね」


言われてアイズは辺りに視線を巡らせる。
豊かな木々に囲まれた広場には、砂場もなく、シーソーもない。
あるのはジャングルジムと滑り台、そして古ぼけた木製のベンチがひとつだけだった。


「陽が落ちるのが早いせいではないか?」
「そうだね。それに、今日は特に冷えるしね」


カノンは、はあ、と大きく吐息した。
ふわりと雲のように広がり、すぐに空気に溶けていく。


「さて、そろそろ車に戻ろっか」


はい、と自然に差し伸べられた手を取ると、満足そうな微笑を向けられる。


「これで手袋が無くても、両手は寒くないね♪」


祈るように絡められた指先を、アイズは柔く握り込む。温められているのは両手だけではないのだと、カノンに伝わればいいと願いを込めながら。



左手におしるこ、右手にカノンの左手。



「温かさは有難く貰っておくが、こいつはカノンが飲んでくれ」


返事とも取れない声が、隣から漏れ聞こえる。
次第に馴染んでゆく温もりを感じながら、ゆっくりと出口へ、歩を進めた。


+fin+


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