Novel:Blue 2

□+Selection of present+
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九月になってから四六時中とはいわないまでも、アイズはずっと何かを考えているようだ。僅かながら眉間に皺を寄せているが、思い詰めているわけではなさそうなので暫く様子をみているのだけれど。
今もそう、部屋のソファに腰かけたきり微動だにしない。すっかり湯気が消えてしまった紅茶にも口をつけず、無表情に、ただぼんやりと自分の手元を眺めている。肩を並べて座っているはずなのに、どことなく遠く感じてしまうのが寂しかった。


「アイズ?」


顔を覗き込むようにして、ひらひらとアイズの目の前で片手を振ってみる。すると小さく肩が揺れ、凛とした切れ長の瞳がカノンを捕らえた。


「……ああ、どうした?」
「どうした…って、聞きたいのは僕のほうだよ。考えごと?」


普段通りに返せているだろうか。穏やかでない心境で、そんなことを思った。
アイズのことはどんなに些細なことでも知りたいし、知っていたい。悩んでいるのなら、何に悩んでいるのかを知りたい。そして、力になりたいと強く思う。兄弟という名称だけでは括れない、唯一無二の近しい存在がアイズなのだ。
だからといって、強引に聞き出すこともしたくない。アイズは過ぎるほどに優しいから。無理に聞き出そうとすれば、それについても悩ませてしまうだろう。自分自身、我儘な独占欲だとよく理解している。あまりに矛盾した気持ちに自嘲せざるを得ない。


「カノン」


不意に声をかけられて、現実に引き戻される。アイズが小首を傾げるのに合わせて、銀髪がさらりとその肩を滑った。


「一から十の中で、好きな数字を言ってくれないか?」
「数字? うーん…、九、かな」


九か、と僕の言葉を反復してアイズはテーブルにあったペンを取り、何処からか取り出した紙に何やら書き入れている。添えられている手の影になっていて見えなかったが、下のほうでペンがぐるりと円を描いたことだけは判別できた。


「わかった」


僕の告げた数字をどう受け取ったのだろうと疑問符を飛ばす。そこにある紙を見ればわかるだろうかと軽い気持ちで覗き込もうとすれば、それに気づいたアイズに手早く用紙をズボンのポケットに突っ込まれてしまう。一瞬の間に目に映ったのは、数字が割り振られたいくつかの単語のようだった。
珍しく慌てた様子のアイズにカノンは少しだけ呆気にとられたが、すぐに微笑みを浮かべ、大袈裟に肩を竦めてみせる。


「僕はさっぱりわからないけど。何か、欲しいものでもあるの?」
「まあな。だが、今は内緒だ」


今は、ということはいつかは教えてくれるのだろう。アイズがいつになく楽しそうに唇を笑ませているから、これ以上深く追求する気は起こらなかった。


「ふふ、そっか。じゃあ楽しみにしてるね」



その日まで、後―――



+fin+

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