Novel:Blue 2

□+心揺羽弾+
1ページ/1ページ


テストまで後三日となり、殆どの授業が自習。それは絶望先生……糸色先生の授業も例外じゃなくて。自習と白いチョークで書かれたのを確認し、僕はテスト初日にある数学の復習をやることにした。


「青山、一緒に勉強しよー」


聞き慣れた声に反応して、数式を書き写す手をとめる。にっこりと笑う芳賀の顔から視線を下げれば、その右手には数学の問題集と筆記具。
でも芳賀、邪魔するからなあ。以前に芳賀の家で勉強したときも、全然勉強にならなかったし。


「わかった、喋んないから」


そう一言だけ呟くと芳賀は近くにあった机を移動させ、向かい合わせに僕の机とくっつけた。


(……あれ、)


なんだろう。これで静かに勉強できそうなのに、芳賀の喋んない、という言葉に胸が痛んだ。
芳賀は試験範囲にあたるページを開くと、その通り一言も喋らずに黙々とシャーペンをはしらせ始めた。いつもなら、うるさいくらい話しかけてくるのに…


(別に、全く喋るなとは言ってないんだけど)


自習とはいえ、お喋りをする生徒もいる。そのざわめきがやたら耳に飛び込んできて仕方ない。数式を写し終えたところでとまったままのノートを見つめながら、もやもやと渦巻く感情が僕の内側を少しずつ侵蝕していく。
邪魔者扱いしたことを、芳賀は怒っているだろうか。よく考えたら、僕は芳賀にとても酷い言葉を吐いたと思う。


(嫌われた…?)


即座に頭を振って誤魔化してみるものの、次々に浮上してくる考えは泣きそうになるほど辛いものばかり。
そんなの、嫌だ。芳賀が隣にいないなんて考えられない。もちろん僕の勝手な思い込み、想像だってわかってはいるんだけど。縺れていく思考にどうしたらいいのかわからなくて、じわりと瞳の奥が熱くなった。


「青山?」


え、ちょ、お前なんで泣いてんの!?明らかに動揺した芳賀の声。気にかけてくれたことに少しだけほっとして、嬉しさにまた涙が零れた。伸びてきた手に眼鏡をずらされ、親指で目尻にたまった水滴を拭われる。クリアになった視界に、芳賀の心配そうな顔が映った。


「え、おれなんかした?」
「違っ、違くて…」
「じゃあ数学の問題難しすぎた? おれ、先生にテスト簡単にしてくださいって頼んでこようか!?」
「いや、違うから! そんなんじゃなくて、」


僕、思ってたより芳賀のこと好きみたい。するりと口をついて出た科白に、素直じゃないなと心の中で苦笑する。本当は言葉で伝えきれないほど、これ以上ないくらいに大好きなのに。
それでも芳賀は一瞬鳩が豆鉄砲を食ったような表情をしたあと、ふにゃりと嬉しそうに笑って俺も、と返してくれた。



+fin+

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ