Novel:Black
□+想いの丈を贈る時+
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「俺らも帰るぞ、火澄……って、何してんだ。」
「ん?後ろ抱き。」
耳元で囁くようにさらりと言う火澄に、もう怒る気も失せる。
歩が椅子から腰をあげると火澄もやや遅れて立ち上がり、それから歩の細腰に火澄の腕が巻きついて、ぐいと引き寄せられたのだった。
「阿呆か。」
「だって、好きなんやもん。好きな奴に触れたいと思うんは、自然なことやろ?」
ぎゅっともう少しだけ、火澄はその腕に力を込めて抱きしめた。
しん、と室内に沈黙が流れる。
「……行くぞ。」
名残惜しげに、しぶしぶ腕を解く。
ふっと口元を緩ませて、歩はむくれる火澄の頬に手をやった。
「そんな顔するなよ。」
「………」
軽く触れるだけの、優しいキス。
「……しゃーない、後でのお楽しみにするわ。」
「勝手に言ってろ。」
ひよのに言われた通りに施錠をし、ふたりは部屋を後にするのだった――
+fin?+