Short Story

□隣りで眠る君
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「──ん…?」


ふっ、と眠りから覚めたピオニーは、己の隣りで寝ているはずのルークの体温を求め、瞳を閉じたまま片腕を伸ばす。
けれど、その手はシーツの上を滑るばかりで何も触れられず、ゆっくりと瞳を開いて朝日の照らす部屋の中を見回した。


「ルー…ク、」


そうすれば、すぐに素肌にシーツだけを纏い、窓の側にただ無言で静かに佇んでいるルークを発見することが出来た。
しかし、朝日に照らされながら憂えた表情で窓の外を見つめているその姿は、今にも消えてしまいそうなほどに儚く、また触れがたいほどに神聖な空気を纏っていて。


「…あ、陛下…おはようございます。もしかして起こしちゃいました?」

「…いや、」


ピオニーが声をかけてもいいものか逡巡しているうちに、逆にピオニーに気付いたルークの方から声をかけてくる。
そして、ルークの心配をかぶりを振って否定したピオニーもまた、ニカッと笑って「おはよう」とルークに返した。


「その格好じゃ寒いだろ。ほら、こっちに来い」

「…え、ああ…はい」


そうしてピオニーが自分の隣りをぽんぽんと叩きながらそう言えば、淡く微笑んで頷いたルークが言われるがままベッドの側まで近づいていく。


「──捕まえた」

「うわ…!?」


そうすれば、ピオニーはルークが自分の手の届く範囲に来るなり、その腕を掴んでルークをベッドの上に引っ張り倒す。
ドサリとピオニーの身体の上に倒れ込んだルークは、その胸に顔を埋めるような体勢になった。


「へ、陛下…!いきなり危ないですよ!」

「ははっ、ちゃんと受け止めてやるから安心しろって。なぁ、ルーク」

「そういう問題じゃ…」


悪戯が成功して喜ぶ子供のように無邪気に笑っているピオニーを、ルークがハラハラとした表情をしながらたしなめる。
けれども、悪びれる様子もないピオニーは、不満そうにぶつぶつとぼやくルークを閉じ込めるように腕の中に抱き寄せた。


「…あのっ、陛下!」

「…じゃないだろ?俺と二人の時は、名前で呼べと約束したはずだが」

「うぅっ…」


甘い空気に流されそうで慌てたように身動ぎするルークの耳に、ピオニーが口を寄せてクスクスと笑いながら、まるで睦言のようにそう囁いて。
吐息と共に吹き込まれたその低い声音に、思わずビクリと身体を震わせたルークは、恥ずかしそうに頬を染めながら呻く。


「どうした、ルーク。俺になにか言いたいことがあったんじゃないのか」


未だピオニーの名を呼ぶのに慣れていないルークの、そんな初々しい反応が見たくて、ピオニーがわざと呼ばせていることをルークは知らない。
今もまた、こうしてその絶好の機会を得ることが出来たピオニーは、口元をニヤニヤとさせながらルークに先を催促する。


「…ぴ、ピオニー、よく考えたらもう起きなきゃいけない時間じゃ…一緒に起きましょう?」


そうして、困ったように笑んだルークが、小首を傾げて思い切ったようにそう告げれば、ルークを抱き締めるピオニーの力がますます強まった。


「あー…ほんとに可愛い奴だな、お前は…!他の奴等なんか放っておけ」

「んなっ…陛下!?」


皇帝であるピオニーの朝は早く、それを心配したルークの気遣いであったのだが、逆にピオニーを喜ばせて奔放さに拍車がかかったらしく。
待った、起きて、と喚きだすルークをしっかりと拘束したまま、ピオニーはまどろむべく再び瞳を閉じてしまうのだった。


隣りで眠る君


(このままずっと、二人抱き合っていられたら、それはきっと幸せ──)





end

+++++

主催企画、第三回聖焔祭の提出作品「と」になります。

久しぶりのピオルク!と、意気込んだのはいいんですが、陛下が難しすぎて撃沈です(爆)
最初、シリアスにするつもりでいたのが、ただいちゃついてるだけの話になりましたorz

2008.12.17 千鳥薙 拝


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