Short Story
□がんばってというきみは至極残酷
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(あー…暇だな。師匠も来ないし、今日はガイとでも剣の稽古するか)
その日、ヴァンと稽古をする予定もなく、自室のベッドでゴロゴロとしていたルークは、ぼんやりと天井を見つめてそんなことを考えていた。
「──ルークッ!」
「……んなっ!?」
だが、突然バンッとドアが勢いよく開き、誰かが部屋の中へと飛び込んできて、ルークもガバッと慌てて起き上がる。
そして、脱力したように床にへたりこんだ相手をよく見てみれば、それはルークの幼馴染みであり使用人のガイだった。
「…ガイ?何してんだ、お前。そんな慌てて」
「ルーク……すまんっ!少しかくまってくれ!!」
「……はぁ?」
ルークが思わずきょとんとしながら何事かと声をかければ、ガイは顔の前でぱんっ、と拝むように両手を合わせて。
申し訳なさそうに眉尻を下げながらいきなりそう頼み込んできて、ルークは訳が判らず盛大に顔を顰めたのであった。
「……で、いったい何があったんだよ。ガイ」
「あ、ああ。それが…」
とりあえず邪魔されないように鍵を閉め、改めて向き合いながらルークが聞けば、ガイは難しい顔をしながら話し出す。
なんでもガイに話があるとかで数人のメイド達に囲まれ、どこかに連れていかれそうだったとこを抜け出し、この部屋まで逃げてきたらしい。
女性に近付かれるだけで飛び上がってしまうガイからしてみれば、それは拷問にも近い恐怖の時間を味わったことだろう。
「ふーん…」
「ふーん…て、お前なぁ…俺は大変だったんぞ。ルークだって俺が恐怖症なのは知ってるだろ」
だが、ベッドの上で胡座をかいたルークは、話を聞いているうちに興味がなくなったらしく、曖昧に相づちをうち、そんなルークにガイが溜め息をつきながら言い募る。
「けど女が嫌いな訳じゃねぇんだろ?メイド達にモテモテなんだし、別に良いことじゃねぇか」
「…いや、まぁ…それはそうなんだが…」
それでも、冷めた眼差しをしたルークは、嫌味のようにそう言い返すだけで、ガイは苦笑をすると困ってしまったように頭をポリポリと掻いて。
「……お、」
「──!」
その時、部屋の外を通るメイド達の声が聞こえてきて、二人はハッとしたようにその声がした窓の方に視線を向けた。
そして、バサリとベッドの上から降りたルークが窓から顔を覗かせ、通り過ぎようとしているそのメイド達に声をかける。
「おい、お前ら!」
「(なっ…ルーク!?)」
「あら、ルーク様」
「何か御用ですか?」
「さっきガイがお前らに囲まれたって泣き付いてきたけど、アイツに何か用でもあったのか?」
「……ああ、ガイ!」
「そのことなら……」
内心焦るガイをしり目にルークは気安くそう問いかけ、メイド達はしばし顔を見合わせると納得がいったかのように頷いてルークに説明した。
曰く、メイドの中の一人がガイへと思いを寄せており、その少女にガイに告白をさせてしまおうとしていたらしいのだ。
「へーぇ……」
「る、ルーク…?」
それを聞いて振り向いたルークはジト目でガイを見つめ、ガイはその険悪な雰囲気に思わずひくりと頬を引きつらせる。
そうして見つめ合うこと数秒、ルークはおもむろに唇をニッ、とつり上げながら、再びメイド達の居る窓へと向き直って。
「判った。そういうことなら、ここに居るガイを連れていっていいぞ」
「ちょっと待て…!?」
「まぁ…!」
そして、さらりとガイがいることを教えてしまうルークに、ギョッとしたように瞳を見張ったガイが、悲鳴染みた声をあげながら立ち上がった。
にわかにきゃあきゃあと騒ぎだすメイド達を背景に、ルークはそんなガイに向けてニッコリと笑いかけながら口を開く。
「それじゃあ、せいぜい頑張ってこいよ?」
「ルーク…!」
それはさながら最後通知のようでもあった──。
がんばってと言う
きみは至極残酷
(だいたい、告白されたところで俺が答えられるわけないだろう…!)
(そんなの知るか!)
end
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主催企画、第三回聖焔祭の提出作品「が」になります。
はい、王道のガイルクですね。しかも長髪ルークです(笑)
お題をコミカルな方面に考えた結果、こんな話になりました。
楽しんでいただければ幸い…!
2008.12.17 千鳥薙 拝