おたから

□あったかい
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六年生が野外演習で居ないから、委員会が結構大変だよ
明後日までに修繕と整理をしておかないといけないのに

何て、ぽろっと漏らしたら、当たり前のような顔して三郎が図書室までくっついてきてしまった
手伝いをしてくれるのだから構わないのだけれど


























「君、図書委員、不向きだよな」

「うっさい…」


変なところで神経質なんだから、この作業に厭きればお前だって僕みたいな修繕の仕方になるくせに

低学年の子達を見れば、いつの間にやら夢の中
外を見れば真っ暗で、あれ、いつの間に?何て思いながら三郎がつけたんだろう灯りを見る

雑すぎるだとか大雑把だとか不向きだとか滅茶苦茶言われるもんだから
文句ばっかり言いやがってと、話題をそらそうと試みて


「最近ちょっと朝晩は肌寒いよな、昼間はまだ結構暑いけど
何だかあっという間に冬が来そうだ」

「でも、寒くなったら焼き芋できるな」


よし、話題がそれた

張り付いて眠っている1年生2人に僕の上着をかけると
ん、と小さく言いながら三郎が僕に上着を差し出してきた


「何だよ」

「寒いだろう」

「じゃあ、久作にかしてやってもいいかい?」

「どうぞ」


久作に三郎の上着をかけて、元居た場所に座って本を手に取る
三郎は手際よく僕の隣で本を修繕している


「貸しといて何だが」

「やっぱり肌寒いな」


3人を起こさないように小さく笑って
三郎の後ろに座りなおして、背中と背中をくっつける


「灯り少し移動させていいかい?」

「勿論」


背中をくっつけて、暫くもくもくと作業をさせていたら
三郎がもぞもぞと動き始めて
何だろうと後ろを向いたら


「何か、じんじんする、背中」

「暑いってこと?」

「くすぐったい」


暑いのならと背中を離そうとしたら、どん、ともたれられた
急に来た重みに変な声が出そうになって慌てて口を閉じる


「丁度いい」

「何が?」

「君が」


うん、と背筋を伸ばして負けてたまるかと三郎に体重を掛けてみたら
三郎は「う゛っ」と変な声を出した
何だい、僕はそんなに重いのか?

胡坐を掻いたまま前屈という変な体制のままの三郎にうんと持たれて背筋を伸ばす
バキバキと嫌な音がしたけれど、それが何だか気持ちよかった
三郎に言わせると僕は体も硬いし姿勢も悪いらしいので、そのせいだろうなぁと思う


「苦しくないのか?」

「苦しくない」

「柔らかいな、よっ」

「こら、それ以上体重かけるな潰れる」

「潰れてしまえ、えいっ」

「う゛っ…」


三郎の肩甲骨の辺りに頭を乗せて、ぼぉっと天井を見ていたら
灯りが揺れるたびに、僕らの影もゆらゆらと揺れて、それを見ていたら眠くなってきてしまった
こんな時間になると起きて居る時は多少肌寒いだけだけれど
寝るとなると寒いだろうなぁと腕を摩る


「三郎、さっさと済ませて部屋に戻ろうか」


返事が無いので、やっぱり苦しいのだろうかと背中を離したら
そのままゴトンと横に倒れていった
最初は驚いたけれど、その後直ぐに寝息が聞こえてきて声を出して笑いそうになる

よくもまぁ、あんな体勢で眠れたもんだ


「三郎、風邪引くぞ」


肩を揺すっても頬を抓っても手を叩かれるだけで起きてくれない
このやろう、熟睡しやがって

まぁ、明後日まで時間はあるわけだし
明日も明後日も三郎が手伝ってくれるってんなら大丈夫かな、何て、我慢もせずに大きな欠伸を1つ
何だか3人を部屋に送っていくのも面倒だし
その後に三郎を担いで部屋まで戻るのも面倒だなぁ、何て考えながら
丸まって寝ている三郎の背中に背中をくっつけて僕も同じ体制で横になる


(あ…)


細く白い煙を上げながら灯りがふわっと消えて、図書室が真っ暗になる
こんなところで雑魚寝なんて、先輩が居たら怒られてしまうかな
でも、此処に居るのは三郎だもの、怒ったりはしないよね


(何か…)


三郎が呼吸をするたびにそれが背中を伝ってやってくる
気がつけば三郎と同じタイミングで呼吸をしていて


(あったかい…かな…?
でも、ちょっとくすぐったい、何だろう?)


これが三郎の言っていた『丁度いい』なのかなぁ、と思って
背中の心地よい温度に、幸せな夢を見て


朝、目が覚めたら三郎を押しつぶしていた










…END…

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