おたから
□静かな夜に
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ある夜、鉢屋三郎が自主練習を終えて長屋へ戻ると、
「お邪魔してまーす」
「まーす」
寝間着姿の級友の姿があった。
「何してるんだお前等」
汗を拭いながら三郎が問う。同じ組の竹谷八左ヱ門ならいざ知らず、違う組(要するに違う長屋)の久々知兵助までもが人の部屋に笑顔で居座っていたのだから、その疑問はもっともだろう。
「あ、三郎。自主練終わった?」
「雷蔵」
廊下の向こうから歩いて来たのは、三郎と同室の不破雷蔵だった。
「雷蔵、何こいつ等」
「こら三郎指さすなよ」
「今日はお泊り会するって決めたんだー」
「…みたいだよ?」
三郎の知らぬところで勝手に決定された「お泊り会」とやらに雷蔵が苦笑する。どうやら彼はすでにこの状況を受け入れているらしい。
「お前等そーゆう事は先に言え、先に」
「はは、すまん」
「急にやりたくなったんだもん」
「久しぶりだよね」
先に教えてくれていたら自主練を早めに切り上げたのに、と零しながら三郎は寝間着を手にとる。
「とりあえず風呂行ってくるわ」
「「「いってらっしゃーい」」」
三人の声に見送られて、三郎は一日の汗を流すために風呂場へ向かった。
「で、これはいったいどういうことかな?」
「ははは…」
風呂から戻った三郎を迎えたのは苦笑いの雷蔵と
「…幸せそうに寝ちゃってまぁ…」
三郎と雷蔵の布団を占領するように眠る八左ヱ門と兵助の姿だった。
「ちょっとは遠慮して寝れないもんかねぇ」
「…それは僕には何も言えないけど」
「…確かに雷蔵の寝相の悪さも中々のものだけどね」
言いながら三郎は寝ている二人の傍へ寄る。
「ていっ」
小さな掛け声と共に兵助を八左ヱ門の方へ転がす。疲れているのか、それとも安心しきっているのか、兵助は僅かに呻いただけで目を覚ますことはなかった。
「よし場所が空いた」
「あの、三郎、ハチが下敷きになってるけど」
「大丈夫だって」
「…そうかなぁ…でも兵助軽いし大丈夫かも…いやでも肺が圧迫されてたら…」
いつもの迷い癖を発揮する雷蔵にはかまわず三郎は自分の寝る場所を整える。そうして
「ほら雷蔵、一緒に寝よ」
未だぶつぶつと言っている雷蔵に手を差し出した。
「…うん」
・・・