短編集

□なんて無謀な恋をする人
1ページ/3ページ

「う、……あ、」



ぐちゅ、と後ろから乱暴に突かれて悲鳴をあげそうになるのをぐっと堪える。掴まれた腕も、押さえ付けられて壁に擦る頬も痛いけど、それが何故か心地いい。このひとがくれるものは全て、愛おしい。





「数奇な女だ、愚かしい程に」

「っ、んん、……あ、」






耳元で囁かれる、脳を支配するバリトンに身体の芯が熱くなる。きゅう、とわたしを蹂躙する熱いそれを無意識に締め付けて、崩れ落ちそうになる膝に懸命に力を込めた。





「っは、あ、……無惨、……」

「その名を呼ぶな」

「っん、」




ぐい、と身体を引っ張られてより深くに熱いそれが刺さる。耳にかかるのは柔らかな髪で、首筋には鋭い牙が当てられた。





「このまま喰ってしまいたい」

「っ、はぁ……貴方がいいなら、どうぞ……っ、?」




自分でも数奇な運命だと思う。今、わたしを犯しているこの男は鬼舞辻無惨。人間ではない、始まりの鬼とされている、人間の敵だ。かく言うわたしは鬼でもなんでもない、人間だ。しかも今は除隊しているとは言え鬼殺隊の一員だったわたしが何故交わるはずのない鬼に抱かれているのか、話せば長いようで、端的に言えば一言で済む。ただただ、この男に魅入られた、ただそれだけのこと。




そもそも鬼舞辻無惨はわたしの親の仇だ。幼い頃、わたしの両親はこの男に殺された。両親のことは勿論愛していたし死んでしまったことは未だに悲しい。それなのに仇であるこの男に憎しみを抱くどころか惚れてしまうなんてどこかおかしいのだと思う。思う、じゃない、おかしいのだ。ずっと昔、貴方が両親を殺したあの日から。





「っ、ひあ……!も、だめぇ、!」





がくがくとゆさ振られて頭が真っ白になる。吐き出された精子をナカで受け止めて、わたしは力なく崩れ落ちた。






「っ、はぁ……っ、」

「まだ喰わない。お前は早く鬼になれ」




優しさなんてカケラもない行為で、一方的に蹂躙されて、崩れ落ちたって放置される。そんなのはもう何度も何度も繰り返して、その度に紡がれる毒のようなそれ。




そもそも人も鬼も関係なく断罪する無惨が何故わたしだけをこうして生かしているのか、それは気まぐれなんて優しいものでも、愛情なんて不確かなものでもない。ただ、わたしが日を克服する鬼になる余地があるからだ。


わたしだけが持つ特異な力を、彼は恐れている。だがそれと同時に利用しようとしているのだ。鬼を人に戻せる、この力を。




その力に気づいたのは何も最近の話ではない。当たり前のように、最初から知っていたみたいにこの力を使っていたわたし。それを無惨に知られたあの日から、わたしたちの関係は始まった。わたしの日輪刀に刻まれた彼岸花、その力を使う時、満開に咲き誇るのは青い彼岸花。それを見た無惨のあの表情は未だに忘れられない。



鬼を人に戻す力は、鬼に問うことから始まった。このまま殺されたいか、また人として生きたいか。人として生きる道を選ぶ鬼は少ない。けれど確かにわたしは数人の鬼を人に戻していた。



しかしその力も万能ではなく、鬼を人に戻せば戻す程、わたしは鬼に蝕まれる。戻す、というよりはわたしが鬼を吸い取っているのではないかと思う時がある。だからいつか、鬼を人に戻し続けていたらわたしは鬼になるだろう。無惨の狙いはそこにあるのだ、わたしが鬼になったその時、日を克服している可能性があるから。






あっという間に姿を消した無惨。それでもこの身体に植え付けられた熱はまだそのままで、わたしはずるずると体勢を変える。今回もだいぶ酷く抱かれたから暫く動けないだろう、無惨に抱かれた後はいつもこうだ。暗い路地裏でひとり息を吐く。もうすぐ夜明けだ、今鬼に襲われたらたまったもんじゃない。勝手に死ぬことさえわたしには許されていないのに。






次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ