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□きっとすべては望めない
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ほら、こんなにもいとしくて、こんなにもとうとい。










「っ、かなめ、っ」


「慣れないこと、するからだよ?」


「…………だって、」









月が高く昇る、夜。
休日の今日は寮のみんな、各自好きなことをしていて。
そんな中、小さな悲鳴と微かな血の香りにキッチンへと足を向ければ、そこにはナイトクラスの一人であり、貴族吸血鬼にして僕と一条の幼なじみが、指を押さえてしゃがんでいて。








「何作ってたの?」


「……クッキー、」


「珍しいね」


「拓麻が食べたいって言ったから、」


「そう、」








血の滲む指を、静かに舐める。
僕たちヴァンパイアは比較的傷の治りが早いけど、それでも純血種のように即座に治るわけではなくて。
それに何より勿体ない、きみは、きみを成り立たせているものは、愛しくて尊くて、しかたないから。








「かなめが血、舐めるのって珍しい、」


「そう?」


「誰の血も飲んだり、あんまりしない、のに」


「噛み付いていいの?いいなら噛み付くけど」


「っ、」









指に小さくキスを落として、その手を離す。
静かに笑いながら本音を紡げば、きみはびっくりしたようにこちらを見つめて。








「なぁに、そんなに驚くこと?」


「っ、ずっと一緒にいたのにそんなこと言ったことなかった、から、」


「きみは一条で手いっぱいかと思ってね」


「っ、かなめいじわる、からかわないで、もう、」









少し顔を赤くして、立ち上がる君。


本当は知っていたんだ。
きみと一条がお互い好き合っているという事も、同じ貴族吸血鬼である君たちはつり合っていて、親に決められても、決められなくてもいずれ結婚するという事も。
知っていて、それでも手をのばしたくなるんだ、叶わないと、知っていても。










「わたしはかなめだって、大切なんだから」


「そう?」


「っ、当たり前なこと言わせないでよ、………血が欲しいならあげる、純血種だからじゃないよ、かなめだから、ね」


「………ありがとう」









それでも。
こうやってきみは、僕に笑いかけてくれるから。
それだけでいい、多くは望まない、ただこの世界で笑ってくれていれば。
それだけで。













きっとすべては望めない
(「はい、あーん」)
(「…………、?」)
(「あれ、かなめクッキーキライだっけ?」)
(「……いや、そういうわけじゃない、けど、」)
(「だよね、よかった、だから、あーん」)









(抱きしめてしまうことは、きっと出来ないけど、)
(それでもいい、きみが僕にも笑っていてくれるなら、)











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