NOVEL

□僕はここにいる
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全身を黒に覆われたその姿
鋭い眼差しがこちらを向いて
遠目でもわかるほど、大きく逞しい体
無駄のない筋肉に包まれた足がゆっくりと動き…

とたとたとた

…ぺしっ

「やあ、ニコラス♪今日も元気そうだね」

「―…はぁっ!?」

「なーぉ♪」

うららかな昼下がりの食堂で三者三様という言葉そのままに
ヴァッシュと
ウルフウッドと
―…そしてヴァッシュのブーツに猫パンチを当てた、この界隈のボスである黒猫様は

約一名を除いて、のんびりと挨拶を交したのだった

◇◆◇◆◇◆

「どーゆーこっちゃねん!何でそん猫にワイの名前つけとんねんな!」

「えー?何かここの食堂の看板猫らしいんだけど、実はノラが勝手に住み着いてるだけだからちゃんとした名前をつけてないんだって」

だからお客さんも店主も、『ちび』だの『クロ』だの好き勝手に呼んでいるらしく…

「この子キミにそっくりだから、僕はニコラスって呼ぶ事にしたんだよ。ね?ニコラス?」

「なぉー♪」

「納得出来ひんわぁー!!」

不機嫌な様子で怒鳴り付けてくるウルフウッドを後目に、すっかりヴァッシュの膝の上でリラックスし、顔まで洗っている黒猫様…ヴァッシュ命名ニコラスは
鼻先に突き付けられたウルフウッドの指を軽く匂うと、うっとうしそうに顔を反らして欠伸を洩らした

「うーわーニコラス可愛い!ね!可愛いよねウルフウッド!」

「なんやめっちゃ不愉快や!」

相当歯痒いのか、黒髪を掻き乱しつつ頭を抱え、ウルフウッドはダンダンと音を立てて床を踏みしめる

「そんな怒るなよー。ニコラスが怖がるだろ」

そう言ってぎゅぅ…と赤いコートの胸元にニコラスを抱き締め

「ねぇ?ニコラス」

「にゃ?」

ちゅっ


ブチン

と形容すればいいのだろうか…
抱き締めているニコラスの小さな黒い鼻に唇で触れた途端、ウルフウッドの額に浮き上がっていた血管が、一本切れたような気がした

「―…もぉエエ。ワイは部屋戻って寝る」

「あ…あれ?ちょっとウルフウッド!?」

暴れられては困るものの、もうちょっと何かを言われるかと思っていたヴァッシュは、酷くアッサリと引き下がってゆく様に、困惑した眼差しを向ける

だが
怒ってます!
…なオーラを漂わせている背中は振り返る事なく、階段を大股で上り切り二階の宿へと消えて行った

「…何をあんなに怒ったんだろ」

「にーぅ?」

猫にヤキモチ…なわけないよね
というか、あんなあからさまにヤキモチなんて妬く奴じゃないし

むぅ…と僅かに唇を尖らせ悩んでみても、理由なんてわからなくて…
床に降り立ってコートの裾にじゃれついているニコラスへ視線を移すと

「…やっぱりウルフウッドって猫みたいだよね…」

気まぐれな習性を思い返し、残っていた紅茶を一気に飲み干した

◆◇◆◇◆◇

―…コンコン

「ウルフウッド?」

「…あぁ?」

扉をノックして声をかけてみれば、内部から不機嫌な声が響いて
…入るのをためらってしまうが、何せこの街での宿はツインを取っているのだ
入らなければ寝る場所などない

「…入るよ?」

そう断って扉を開けば、意外とアッサリ室内に入れ、中にいた男も思っていたほど怒っているわけではないのか、表情は普段と変わらない

…ただ声だけが不機嫌なのだ

「早う戻ってきたんやな。もー遊ぶんはエエんか?」

「んー…ニコラスの事?」

チクチクと緩く刺さるような言葉に苦笑いを溢しつつ、当てがわれているベッドに腰を落ち着けヴァッシュは今度こそクスクスと笑い出す

「やっぱり気分屋だね。散々コートで遊んだら、さっさと何処かに行っちゃったよ。本当にキミみたいだ」

「…さよか」

怒りとも呆れともつかない返答をするウルフウッドはおもむろに吸っていた煙草を灰皿に押し付け、ガタンと音を立てて椅子から立ち上がった
そして何を考えているのか、ベッドに腰かけるヴァッシュの正面に移動し―…

「…ウルフウッド…?―…っわぁ!?」

ガバッとその目の前の体に抱きつき、二人でベッドへと絡まりながら倒れ込む形になる

「こら!ちょっと―…ウルフウッ…ド?」

「…………めっちゃ腹立つわ」

そのまま強制的に行為に及ばれるかと思ったのだが、以外な事に赤いコートに顔を埋めたまま、ウルフウッドは何も手を出そうとはしない

それに何だか…
甘えているような気がして
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