□夜(1500hit)
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静寂に畝めく

影の傍らは

夜の海に似て

溶ける程の目眩の色


沈む月を飲みこんで

アダムの喉を潤す

赤い果実の唇は

暑い夜の接吻を 
受けてさらに熱を増し


真珠の砕けた音に驚き
貝の開く音に驚き



駆けだした稚児の足跡

追う竜笛の細い音色



弦を無くした琵琶は
傍らに侍り
梁の上の鬼達も
忍び足の詮議を下す


あのおでこに当てた指は
あのおでこに当てた口は



鐘の音が遠くで鳴った



沈む夜は蝋燭の明かりで鞣して

沈む芳香はその袖に隠してお行き


いつかも明けぬ夜を待つのは
もう手慣れた瞳の奥の
寂しさなんぞを知らぬままに
手元に転がす真珠達の
涙でさえをも癒せぬ始末


こうなってから ようやくあの手が欲しくなる


掴み損ねた後ろ髪
残る星影を拒んで捨てた


消えた足跡を辿ってお行き
消えた香りを辿ってお行き


樹の窪の中に眠る子鬼

蓮の瞼はまだ開かない


(2007.5)

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