00部屋参

□重さのない言葉は嫌い
1ページ/1ページ




「出雲ちゃん、出雲ちゃん」
 後ろから呼ばれて、出雲は顔を顰めて振り向いた。
「何よ」
「一緒に帰らへん?」
「帰るって言っても、学校出るまででしょ」
「ええやん。帰ろうや」
 出雲を呼びとめたのは、先程まで一緒に祓魔塾の授業を受けていた志摩。後ろには、見守るように子猫丸と勝呂がいるのが見えた。
 馬鹿みたい。
 そう思いながら、出雲は再び歩き出す。
「あんたとなんて帰りたくない」
「怒る出雲ちゃんも可愛えなあ」
「勝手に名前で呼ばないで」
 出雲がねめつけるも、志摩の前には効果なし。どこ吹く風の彼の様子は、出雲の苛立ちを余計に加速させた。
「ついてくんじゃないわよ」
 吐き捨てて、出雲は歩き出す。出雲が本気で嫌がっているのを分かっているからか、志摩も追っては来なかった。
 しばらく歩いたところで、出雲は呟いた。
「馬鹿みたい」
 そう、馬鹿だ。自分でもそう思う。
「可愛い、だなんて」
 志摩はすぐに「可愛い」と言う。出雲ももう何回も言われているし、しえみに対して使っているのを見たこともある。
 彼の「可愛い」は、軽い。
「何人の人に同じ言葉を言ってきたのよ」
 拳をギュっと握って言うと、ゆっくりと後ろを歩いて来ていた志摩が、優しい声音で答えた。
「俺、信用あらへんのやね」
「当然じゃない」
「でも、『可愛い』は確かによく使うけど」
「……」
「『好き』は出雲ちゃんにしか使わんで」
 なあ、と語りかける声は甘い。出雲は唇を噛んだ。
「馬鹿」
「出雲ちゃんは『馬鹿』が口癖なんやね」
「死ね」
「死なんよ、出雲ちゃん」
 すき、と後ろから声が聞こえる。
 出雲は振り向いて、真っ赤な頬を誤魔化すように言った。
「大っ嫌いよ、私は!」








へらへら×ツンデレとか何その俺得。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ