00部屋参

□マシュマロデイ
1ページ/1ページ





 最初に見た時は夢かと思った、とクレアは回想する。
 ぎゅうと抱き締めると、普段よりも高い声で、グラハムが怒鳴った。
「離れろ、この変態!」



 グラハムが女になった。朝起きたら女になっていたそうだ。
 到底信じられない話だが、クレアにとってはどうでもいいことだ。今目の前に女になったグラハムがいる。それが彼にとってのすべてなのだから。
 グラハムが女になっていたことに一番最初に気付いたのは、クレアだった。
 誰かに相談しなければとラッドの元へ一人で向かっていたグラハムと、偶然道で出会ったのだ。一目見た瞬間に違和感を感じ、いつもの口上も抜きに脱兎の如く逃げ出したグラハムを捕獲、腕を掴んで感じたのが、今彼が感じているのと同じ感覚だった。
 ――柔らかい。
 よく見れば、やはりグラハムであってグラハムではない。輪郭線はどことなく丸みを帯びて、背も縮んでいる。それに何より、いくら女顔の彼にも今までは存在するはずがなかったものが、手に触れていた。
 気付いて速効グラハムを拉致、暮らしている家に連れて来た……そして今に至る。
「お前、本当に女になったんだなあ」
 半ば感動すら混じった声で言い、グラハムの肩に顎を乗せるクレア。後ろからがっちりとホールドされた姿勢のグラハムは、逃げることは諦めたのだろう、生気のない顔で「どーとでもなれ」とでも言いたげである。
「それがどうした」
「いや、抱き心地が良いと思ってな」
 抱き心地が良いとは言っても、彼は今までそれほど多くの女性に触れたことがあるわけではない。触れたことがあるとは言っても、大抵は殺しの用事だ。異常なまでに惚れっぽいクレアだが、そのわりには「恋人同士になるまでは手出ししない」と固く誓っているのだ。
 恋人のシャーネとはまた違う柔らかさに、クレアは目を閉じる。
「シャーネはこう、確かに柔らかい部分もあるんだけど、全体的に脆くて儚い、っつーかさ。いや、そこが良いんだけどな。でもほら、ちょっと加減して抱き締めるようにしてんだよ」
「ちょっと待て。それは相手が俺なら加減しないということか!? 正気を取り戻せ赤毛、俺は人間だ。しかも一応今は女だ。貴様が全力で触れたら壊れる。壊す側の俺が壊されるなどと云うまさかのビックリ展開はいらんから離せ」
「却下だな。一応壊すつもりはないから安心しろ」
「大体貴様に触れられていることが不愉快だということから始まるわけだが、貴様に人間の言葉は通じないのか? 火星人の恋人は火星人なのか?」
「火星人……ってシャーネのことか? 何言ってんだシャーネは俺の妖精で女神だ。ちなみに今のお前は天使だ」
「悲しい……悲しい話をしよう……虫唾が走る」
「珍しく短いな。柔らかくて髪が金で目が青だから、天使以外にないだろ?」
「天使とか言うな吐き気がする。というか手がだんだん移動している気がするのだが俺の規制か自意識過剰か、しかし俺にそういった趣味はないから貴様が自主的に動かしていると判断したわけだが……」
「別に良いだろ、抱き方変えるくらい」
「変えるくらいなら離せ」
 何だかんだ言い募って自分を離そうとしないクレアに、だんだんグラハムの苛々が募ってくる。元来彼は我慢が利く方ではない。利く人間は破壊魔になったりしない。
「赤毛、」
 本格的に文句を言おうと、グラハムは振り返る。そして、それがいけなかった。
 クレアに思わせてしまったのだ。
 唇も柔らかそうだな、と。
「ん」
 身を乗り出して顔だけグラハムと向き合ったクレアは、何の前置きもなしにグラハムに顔を近付ける。本能的にヤバいと思ったグラハムが逃げようとしたがそれは叶わず、数秒後、二人の唇が重なった。
 外見はまるで恋人同士のような男女。
 中身は(一方的に)敵愾心を抱いている男同士。
 数秒後、グラハムは思い切りクレアを突き飛ばしていた。油断していたのかそれともわざとなのか、クレアの体は驚くほど簡単にグラハムから引きはがされる。
「やっぱり唇も柔らかいな」
 床の上に転がったクレアが、にこにこと笑いながら言うのを見て。
 グラハムが彼の分解を決意したのは、言うまでもない。




100000リクエスト「クレグラ♀でにょたハムに癒されるクレア」でした。
クレアさんが素で変態ですがクレアさんは変態だと信じています。そしてクレグラのグラハムは不憫だと信じています。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ