00部屋参

□責任の所在
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「静雄、お前大丈夫か?」
 そう言いながら手当てするために俺の手を取ったトムさんの手の柔らかさは紛れもない女のそれで、俺は少し、ドキッとした。
「だ、大丈夫……ッス」
「ふうん。まあ、無理はすんなよ」
 マキロンをぶしゃーっと俺の指に吹きかけ、ガーゼでふき取るトムさんの指。慣れた手つきを、指を、じっと目で見つめる。
 あまりに重症の怪我を負ったときは、俺は新羅の元へ行く。けれど、この程度のけがの時は、トムさんにお世話になっていた。というより、トムさんが手当てを申し出てくれるから、手当てしてもらっている。
 俺の手の上を動くトムさんの指は、細い。
 ああ、女の人だなあと、不意に思った。
「……トムさんは」
「ん?」
「トムさんは、どうして俺に構ってくれるんですか?」
 トムさんは普通の人間だ。俺が下手に触ればすぐに傷付けてしまう。それを知っているはずなのに、中学時代、トムさんはずっとそばにいてくれた。そして、高校を離れた今も、こうして一緒にいてくれる。
 ずっと知りたかった。どうしてなのか。
 今なら訊けるような気がしたのだ。だから、訊いた。
「そりゃ、お前」
 傷口を見ながら淡々とトムさんが答える。
「お前のことが好きだから意外にねーだろ」
 そうか、そうだから……え?
「トムさん?」
 意味を理解した途端、柄にもなくうろたえる。トムさんの指と顔とを交互に見比べていると、くすり、とトムさんが笑った。
「言っとくけど、そういう意味じゃねーからな。人間として、って意味で」
「ああ……そう、っすよね。えっと、スンマセン」
 ほら、終わった。そう言って指が俺の手から離れる。
 かと思ったら、トムさんの手がすっと動いて、俺の頭を撫でていた。
「中学時代とかは、随分お前に世話になったからなあ」
「そ、そんなことないっすよ」
「いや、あったと思うよ? 私はまだ覚えてるし」
 トムさんの掌が頬に移り、じっとこちらを目が見つめる。ドクリ、と心臓の音がした。
「私はさ、お前には感謝してんだよ。だから当然のことだろ?」
 真面目な顔をして言われ、言葉に詰まる。
 俺がトムさんのためになったことなんて、あっただろうか。ないような気がする。少なくとも、この仕事を始めてからずっと、迷惑を掛けてばかりのような……。
「でも、俺といたら、色々困りませんか?」
 もう一つ気になっていたことを、思い切って訊いてみる。
「何が?」
「だってほら、取り立ての時……いつも、俺とトムさんの二人出じゃないッスか」
「それで?」
「……俺とトムさん、男女ですよね。しかも、その相方が俺みたいなのだったら、その……」
 トムさんから恋愛とかそういう話を聴いたことがないんですが、という気持ちを暗に潜ませて言うと、トムさんは一回首を捻った後、やっと意味が分かったというような顔をした。
「お前が気にするようなことじゃねーベ」
「いや、だってその……」
「お前と仕事してんのは私が選んだこと。ていうかお前、それじゃあ暗に私の未来を心配してるようなもんだぞ?」
「え……? あ、その、俺そんなつもりは……」
「分かってるって」
 からかっただけだっつーのに、と苦笑気味に言ったトムさんは、俺の頬から手を離して、「でも」と悪戯気に付け足した。
「もしものときは、静雄にもそれなりの責任とってもらうからな」
「はい!」
 反射的に答えて、それから。
 意味に気付いてまたもや真っ赤になった俺の顔を、トムさんはもう見ていなかった。







初の静トムがにょたってどうなんだ私(^O^)/
静雄と比べるとお姉さん〜な余裕のあるトムさんを書きたかっただけのはずが、気付いたらプロポーズしていたという……恐るべしトムさん。
にょたトムさんの名前が思いつきません。ていうかあれ本名じゃないですよね?







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