00部屋参
□素直じゃない!
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突然押し付けられた唇は、驚くほどに熱かった。
「……戴宋?」
脈絡のない行動が分からず、問う言葉が飛び出る。けれど、戴宋は答えなかった。
小さい背中が去って行く。何だったんだ、今のは。
そっと唇に触れる。熱の塊のようだった。熱く、熱く、それはあいつの存在のように。
「意味分かんねえ」
どう考えても、キスをする流れではなかったはずだ。
さっきまで、いつものように言い合いをしていた。しようもないことだ。なのに、突然押し黙ったと思ったら、乱暴に胸倉を掴んで引き寄せられていた。
そして、キスされていた。
別に、戴宋が俺にキスすることに疑問を抱いているわけじゃない。一応、そういう関係のはずだ。別に双方から何か言ったことはないが、それでも、多分俺たちは俗に言う、
「……まさかな」
思い当った可能性に、顔が熱くなった。
まさか、心配、されてるのか?
確かに、俺は今から任務だ。たった独りで、とある村に赴くことになっている。そこの保正にちょっと色々教えてやることが目的だ。決して危険な任務ではない。だが、途中で先頭になることは必至だ。
だから、か?
だから戴宋は、急に口を噤んだのか?
「……ばかやろう」
唇に手の甲を当て、その場にずるずるとへたり込む。
「口で言え、口で」
戴宋も俺もそれができる人種じゃないということは、分かっているけど。
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