00部屋参

□天然ダーリン
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 静雄は思う。何故自分はこいつとマックで昼食などとっているのだろうと。
「……オイ、千景」
「なんだ?」
 バーテン服姿でシェイクをすする静雄の正面には、シャカシャカチキンをしゃかしゃかする千景。To羅丸の総長であり埼玉を拠点とする彼が何故この池袋で静雄と食事をしているのか――それは、もっともな疑問であった。静雄も噂になるのを厭い、わざわざ店の端の席を選んでいる。
「なんでお前が池袋にいるんだ?」
 ストローから口を離して静雄が問うと、千景は幼い仕草で首を傾げた。
「いちゃ悪いか?」
「悪いわけじゃねえが……」
 無邪気というか純粋というか、とにかく一切の他意を感じさせない表情でそう訊かれると、静雄も調子が狂う。困惑する彼の様子にも取り合わず、千景はチキンを咀嚼して言った。
「ちょっと喧嘩しに来ただけだよ」
「……喧嘩? 誰とだ?」
「それは教えられねえな」
「ハァ?」
「だって、お前喧嘩嫌いなんだろ?」
 だから、と彼は笑顔を見せる。
「俺が喧嘩しに行くつったら、止めに来るだろ、静雄は」
 言われた言葉の意味に気付き、しばし呆然とする静雄。それを見る千景は、笑顔のままでハンバーガーへと食手を移す。
「だってほら、静雄ってば良い奴だろ?」
「俺が、良い奴?」
「お前、言われたことねえのか? 良い奴だと思うけどな。お前にその怪力がなかったら、めちゃくちゃモテたんじゃねえか?」
 サングラスを外している顔をしげしげと眺めつつ冗談を言うようではない口調で言われ、静雄は目を逸らした。気まずいというか、気恥かしい。
「そうだ。今度可愛い子紹介してやろうか? 俺のハニーたちは譲れないけど、ハニーたちの友達に訊いてみるとか」
「……別に、俺は自分が好きになった奴以外と付き合う気はねえよ」
「でもさ、今は出逢いからだろ? とりあえず友達になってみる、とか」
「いらねえよ」
 やけにきっぱりと、しかし目を逸らしたままで言われ、千景は目を瞬かせた。
「なんでだよ?」
「俺は今のままで十分だ」
「今のまま? 彼女なしのままってことか?」
「……そういう意味じゃなくだな、」
 興味津津といった彼の視線を受け、静雄は口ごもる。元々口下手の気のある彼にしてみると、ここ最近思っていることをことばにするというのは、非常に困難なことなのだから。
「なんつーか」
 トントン、と人差し指で机を叩き、そのリズムに合わせて静雄は告げた。
「お前みてえな奴がいるだけで、十分っつーか」
 それは、彼にしてみれば純粋な友情の表現だったのかもしれない。
 しかし、まったく同じような言葉をハニーたちに伝えている千景にしてみれば、それは違う意味にとれた。
「……静雄」
「何だ?」
「お前さ、天然タラシとか、言われたことねえか?」
「ハア?」
 いつもはさらりと甘い言葉を吐く彼だが、自分が言われる立場になることはそうない。ストローハットで赤く染まった耳を隠して、千景はぼそりと呟いた。
「……お前が怪力で、本当良かった」






友情以上恋愛未満な二人。
超個人的にげつさんに捧げます!今更ですが入学おめでとう御座います……!
ろっちーのキャラが、分かりません^^
そして、静雄は、ろっちーにはキレない人だったらまた良いです。

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