00部屋参

□崩壊ワルツ
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 世界が壊れていく夢を見た。
 ぐらぐらと地面が揺れて、崩れて、落ちて行く夢だった。
 俺はそこに立っていて、何故か俺だけは落ちて行くことなく、普通に世界に立っていた。そして周りの人間は落ちていった。みんな知らない人間ばかりだった。
 その中に、シャフトがいた。
 シャフトもやはり崩れた岩の上に立っていた。なんでこいつ無事なんだ。そう思っていると、やはりシャフトの足場も崩れ、まっさかさまに世界の底へと落ちて行った。
 反射的に手を伸ばしていた。
「シャフト!」
 あいつの目は虚ろだった。空っぽだ。何の意志も魂も宿っていない、肉体だけの存在みたいに、ぼんやりと宙を見つめている。
「シャフト!」
 もう一度呼んで、伸びるだけ手を伸ばす。相棒のレンチも使った。もっと、もっと、もっと! シャフトを救わなくてはならない。
 虚ろな目と目が合った。
「シャフト、」
 囁きかけるようにもう一度言うと、空だった目に俺の姿が映る。
「……グラハムさん」
「掴まれ」
 もう叫ぶ必要はなかった。
 シャフトに戻ったシャフトの耳は、どんなに小さくても俺の声を拾ってくれる。俺はそう知っていた。
 シャフトの手が俺のレンチを掴む。ぐい、と俺はそれを引っ張り上げる。人間一人分の体重は重い。それが成人男性ともなれば尚更だ。けど、俺は手を離す気はなかった。
 もう少し。もう少しでシャフトの足が地面につく。
 そう思いながら、レンチを思いっきり引きあげる。
 手と手が触れ合う。シャフトの手を、レンチを握っているのとは反対の俺の手が握る。
 そのときだった。
「グラハムさん!」
 俺がいた足場が崩れ、俺たちは、地球の底へと落下を始めた。
 まさか俺も落ちるなんて思っていなかった。驚きながら、既に頭上のものとなった足場の残骸を見上げる。
「……落ちるのか」
 呟くと、そうですね、とシャフトが言って、泣き笑いのような顔をした。
「グラハムさん」
「何だ?」
「俺を独りにしないでくださいね」
 そのままギュウと抱き締められ、俺はシャフトの顔を見上げようとした。しかしそれは叶わなかった。俺の顔はシャフトの胸に押し付けられ、首が動く状態にはなかったからだ。
 でも、良いと思った。
 顔なんて見えなくて良いと、思った。
 そのまま俺たちは落下した。
 何処に着いたのかは、覚えていない。






 そんな夢を見た。
 シャフトに言うのも照れくさい、というかなんか馬鹿にされそうな気がして癪なので、誰にも言わないと決めてその朝は家を出た。
 なのに。
「今日、変な夢を見たんです」
 シャフトがそう言いだしたときには、俺の体はさすがに固まった。
 それは俺が見たのと同じ夢だった。俺とシャフトの立場が入れ替わってはいたが、まあ同じ夢だと言って良いだろう。
 俺もその夢を見た。
 そう言うかわりに、俺はシャフトの頭を殴っておいた。
 奴が悪い。
「でも俺、グラハムさんとなら、このまま落ちて行っても良いなんて思ったんすよ」
 幸せそうに、奴がそう言うから悪い。





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