00部屋参

□悲しまない
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「……刹那ってさ、」


 勉強を教えてもらったこと、ある?僕がそう訊くと、刹那は食べていたトレイから顔を上げ、ないと答えた。僕は頷き、僕もだよ、と返事をする。僕は勉強を教えてもらったことはない。勿論、基本的な言語や歴史、地理等は任務に必要だから教えてもらった。だけど、それ以外の理数的なものは教えてもらったことがない。刹那も同じなのだろう。僕も刹那も、学校なんかに行けるような所にはいなかった。
 僕はスプーンを口に運び、それを咀嚼しながら考える。勉強。理数なんてものは、生きていく上では別に必要ないのだろう。だから、別に勉強できなかったことを気にしているわけではない。でも、勉強したい、とそう思うことも、ある。あるんだ。



「勉強、したいと思う?」
「……別に」
「そっか」



 刹那が特に気にしていないのは、本当のことなのだろう。刹那は別に必要も関係もないことを気にしはしない。僕が神経質なだけなのだろうか。
 考えながら、僕はまた食事を続ける。すると、驚いたような声をかけられた。



「あれ、珍しいな」



ドアがスライドしてロックオンとティエリアが顔を出す。最近は二人が一緒にいることも多い。も、と言うより、ティエリアが他人と一緒に行動していることなんて、ロックオンとしかない。



「そうですか?」



 僕が首を傾げて訊くと、ロックオンは笑いながらこちらへ歩いてくる。そして、僕の横の席に座って、持ってきた昼食を机の上に置いた。その正面、刹那の隣には、ティエリアが腰を下ろす。二人も黙々と食べ物を口に運びながら、特に何を話すわけでもない。だけど、時々視線を交わしている。
 気付くとロックオンがこっちを見ていて、僕と刹那を交互に見てから、首を傾げて僕に訊いた。



「何の話してたんだ?」



 僕はスプーンを皿の上に置き、刹那の顔を見る。刹那は僕の目に、説明してくれ、と言いたげな視線を寄越した。



「……勉強の話」
「勉強!?」



 僕の言葉に、ロックオンの声が裏返る。僕ははい、と頷いて、信じられない、と言いたげなロックオンに控えめに笑いながら言った。



「僕たち、勉強とかほとんどしてないんです」
「……あぁ、そうか。二人はないのか」
「ロックオンは?」
「あぁ……一応な。学校行ってたし」



 そうか。ロックオンは、そういう環境にいたのか。初めて知った。だけど、刹那もティエリアも気にしていないのか知っているのか、普通に食事を続けている。勉強、していたのか。数学や理科も習ったのか。すると、ロックオンはお茶を飲み、僕と刹那ににっこりと笑って言った。



「じゃあさ、俺が勉強を教えてやろうか?」
「え?」
「勉強なんて、別に楽しいもんじゃねぇけど……それはまぁ、普段から勉強してる人間だから言えるんだよな」



 つるん、とスパゲッティが口の中に吸い込まれる。僕が返事をするよりも早く、刹那がこくりと首を縦に振った。珍しい。すると、一人黙っていたティエリアがふと顔を上げ、僕たちではなくロックオンの顔を見て言った。



「僕も教えます」
「ティエリア、良いのか?」
「はい。貴方だけでは無理ですし」



 僕たちは四人で顔を見合せる。最初に笑ったのはロックオン。その次は、僕。ティエリアは何が面白いのか分からないといった表情で、刹那も目を白黒させている。
 あぁ、楽しい。楽しいというのは多分、こんな感情だ。
 たとえ勉強を教えてもらっていたことがないとは言っても、それを悲しむことはない。悲しくない、ただ、
 刹那と、ロックオンと、ティエリアと一緒なら、僕は悲しむことなく生きていくことだって、きっとできる。そんな気がするんだ。









 

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