00部屋参
□眠い
1ページ/1ページ
トントンと聞こえたノックの音に、僕は顔を上げた。
「どうぞ」
一体誰だろう、と思いながらも答えると、僕の返事を待っていたのだろう、すぐにドアがスライドした。姿を現したのは刹那で、珍しいな、と少し驚く。
「どうしたの、刹那」
「いや……」
まっすぐにこちらへ歩いて来た刹那は、僕の隣に腰を下ろした。そして、無表情に近いいつもの表情で、じぃと僕の顔を見る。刹那の目は僕の全てを見透かしているようだと、いつも思う。
しばらく僕の顔を見てから、刹那は呟くように言った。
「……アレルヤ、最近眠れないのか?」
「……どうして」
「目の下にくまがある」
そのとおりだ。
最近何故か眠れない。あれからずっと、寝ようとするとあの独りで閉じ込められていた日々のことを思い出してしまう。怖いんじゃない、苦しくなる。だから眠れないんだ。眠ることが怖い。
どうしてだろう、一人だった時は何が怖かったわけでもなく、何も考えていなかったのに。どうして今頃になって怖くなるんだろう。
だけど、それをそのまま刹那に言うわけにはいかないから、苦笑するような表情を作って刹那の言葉に答えた。
「そうなんだ。でも大丈夫だよ、心配ないから」
この数年の間に口癖のようになってしまった。言葉にも顔にもそれが表れてしまっているのか、刹那がいぶかしげな顔で僕を見る。
刹那、君が知っている四年前の僕よりもずっと、僕はずるい大人になってしまったんだ。
なのに、そんな僕に気付いたのが、一番他人に興味のなさそうだった刹那だなんて。刹那は僕と違って、ちゃんとあの時から成長できているのか。
そんなことを思いながら力のない微笑みを浮かべていると、僕の髪に手を伸ばした刹那は、子供に対するように僕の頭を撫でた。その手の優しさ、四年前とは違う大きさに、目が熱くなる。
刹那。
「アレルヤ、」
「うん」
「もう俺は、あの時のアレルヤより、大人なんだ」
あぁ、そうだね。そうだった。
君はもう、16歳の子供じゃないんだ。
「一人で背負うな」
その言葉が耳の奥であの日のあの人と重なる。僕は頷いて、刹那のまっすぐな目と視線を合わせた。
「そうだね、刹那」
その言葉を口にしたとき、また時間がちゃんと流れ始めたような気がして、金の目と灰の目で僕は瞬きした。
眠いよ、刹那。君に甘えて、眠らせてもらおうか。