00部屋参

□ずるいのはどっち
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鬼×陰陽師で平安パラレル




「小町さん」
「ん?」
 星座盤をいじる小町さんの背中から抱きついて肩に顎を乗せると、整えられた彼の髭が頬に触れた。
「どうした、慶次」
「また占いですか」
「ああ。ちょっと頼まれてな」
「また、左大臣殿から?」
「鋭いな」
 少しこちらを向いた彼の手のひらが、俺の頭をくしゃりと撫でる。完全に相手にされていない。身分が違うとは言え、小町さんの行動の理由になれる左大臣に嫉妬した。しても仕方がないのだけれど。
 小町さんは、平安京一の、今をときめく陰陽師。年季に裏打ちされたその確かな腕を見込んで、たくさんの人間が依頼をしてくる。中でも左大臣は重要な、小町さんの支持者。疎かにできるわけはない。一方の俺は、元人間、現鬼の小町さんの式神に過ぎない身。小町さんを束縛できる立ち話じゃない。……だけど、
「小町さん」
 星座盤を見つめる彼の頬に口付けると、小町さんは真剣な顔で言葉を返してきた。
「後でな、慶次」
「今がいいです」
「駄目だ」
「小町さん」
 俺がこんな風に小町さんにしつこく絡むのは、珍しい。自分でも滅多にやらないことだと思う。それでもやってしまうのは、つい最近、彼の親友だった男の話を聴いてしまったからだろう。
 鬼になって狂い死んでしまった、小町さんの親友。彼の死以来、小町さんは陰陽道に打ち込むようになったのだという。
 その話を耳にしてから、俺の心はずっともやもやしていた。
「小町さん」
「しつこいぞ、けい、」
 じ、と名前を呼びきられる前に、俺は彼の体を引き倒した。がらん、と星座盤が床に転がる。これくらい、鬼の腕力をもってすれば造作もない。
「いてて……」
 頭をさすって起きあがろうとした小町さんの体を組み敷いて、顔を寄せた首筋に牙を立てる。
「オイコラ、」
「俺だけ見ててくださいよ」
 あれからずっと訊きたかった。俺は代わりなのかと。失った親友の、代わりなのかと。
 小町さんが俺に甘いのは明らかだ。現にこうして強引に押し倒されても、本気の抵抗をしない。いくら俺が鬼とはいえ、主である小町さんは言霊一つで俺の動きを縛ることができる。それなのに、だ。
 それを愛情だと思ってしまえるほど、俺は単純じゃない。
「しましょう」 
 囁いて烏帽子をむしり取り、着物の袷から手を差し入れる。鋭い爪で肌を引っかくと、血がにじみ出たのが分かった。
 今まで見せなかった強引な俺に、小町さんが動揺しているのが分かる。でもすぐに状況を受け入れたのか、ため息をつくと、大きな手のひらで俺の髪を鷲掴みにし、無理矢理顔を上げさせてきた。
「いてっ」
 今度は俺が顔をしかめると、「あのな」とまっすぐ目を見て小町さんは言った。
「何ムキになってんだよ」
「なってません」
「何か気に障ることでも言ったか?」
「……言われてないです、でも、」
 分かってる。小町さんには何の責任もない。気にしているのは俺だけ、俺が勝手に嫉妬しているだけだ。
「安心しろ」
 手を滑らせて俺の体を腕で包み、小町さんはギュッと俺を抱き寄せた。
「俺の一番はお前だから」
 本当に、と問いかけたくなる。今は俺でも、でも、俺よりもその人の方が好きだったんじゃないのか。俺は代わりでしかないんじゃないのか。訊きたい言葉が泡のように胸に浮かんでくる。
 だけど、訊けず終いのまま、俺は小町さんに尋ねた。
「小町さん、口付けていいですか」
「ご自由に」
 ああ、訊きたいのに訊けない。貴方の本音を聴くのが怖くて。
 ずるいのは、気付かないふりをしているのは、一体どっちだ。





書いてしまった鬼×陰陽師パロディ。これ原作設定でも全然問題なかったですね。でも慶次の力が人為変態しなくてもめっちゃ強いという設定にできたのはパラレルにして良かったかも。
自己満足すみませんでした。

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