00部屋参

□わざと気づかないふりする私に、きっと彼は気づいてる
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「艦長」
 俺を見つけた慶次は、ランニング中だったのだろうが、もともとのペースよりかなりペースを上げてこちらに走ってきた。
「おはようございます」
 まだまだ軽い息で言われて、さすがアスリートは違うなと思いながら、「おう」と応える。
「こんな早朝からランニングか? お疲れさん」
「この時間は良いですよ、人がいなくて。艦長もどうですか?」
 誘ってきた慶次の声が、運動のせいだけでなく弾んでいることに、勿論俺は気付いていた。だが、気付かないふりをして、俺は遠回しに断る。
「いや……実は今から仕事があってな」
「……そうですか、残念です。忙しいんですね」
「艦長だからな、一応」
 にっと笑いかけると、慶次の頬が赤くなった。まったく、こんなオッサンのどこがいいんだか。他人に好かれる度に思う言葉を呑み込んで、「頑張れよ」と俺は手を伸ばした。
「ほどほどにな」
 子供扱いするように、何も気付いていないかのように、慶次の頭をくしゃっとかき回して、俺は慶次とすれ違っていく。
 突っ立って俺の後ろ姿をじっと見つめる慶次の表情には、気付かないふりをした。

(俺がわざと気付かないふりをしていることに、きっとあいつは気付いてる)
(ごめんな、慶次)
(俺はもう、愛するものを失いたくないんだ)


創作向けお題bot(@utislove)様より。
ずるい大人な艦長も好きです。

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