00部屋参

□此処は優しくて温かくて、ぼくはいつまでも抜け出せないんだ
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 温かい、母親の羊水のような、白い、世界。
 ふと顔を上げると、そこには見慣れた背中があった。
「……父上?」
 そう、間違いない。あれは父のものだと、二代は認識する。
 彼は、こちらに背を向けて立っていた。まるで、こちらを拒絶するかのように。
「父上、」
 呼んで、二代は足を一歩、踏み出す。すると、父も一歩踏み出して、また離れた。
 何故。何故父は振り返って名前を呼んでくれないのだろう。疑問に思って、二代は駆け出す。
「父上!」
 だけど、いつまで経っても、彼女の体は父へと辿り着かない。どころかどんどんどんどん遠くなっていくばかりだ。
 おかしい。
 さすがの二代もそう思って足を止め、そして、はっと気付いた。
 父はもう、死んでいた。




「二代! 二代!」
 名を呼びながら体を揺すられて、二代はゆっくりと目を覚ました。
「……正純?」
 視界に映り込んできたのは、心配そうな顔をした同級生。彼女の顔を見て、ああ、と二代は思い出す。
 そうだ。ここは正純の家で、二代は昨日の晩からそこに泊まっているのだった。
 次第に頭が起動していく中で、二代は起き上がると、自分の体に触れる正純の手を取った。
「正純、何かあったので御座るか?」
 すると、正純はほっとしたような顔をして、いいや、と首を横に振る。
「少し魘されていたから、どうしたのかと思っただけだ」
「そうで御座ったか」
「悪い夢でも見たのか?」
「……いいや、特には」
 二代が珍しく言葉を濁すと、正純もそれ以上は追及してこなかった。代わりに、枕元に置いてあった服を手に取って着替えながら、意図的に話題を変える。
「そろそろ朝食にしようと思うんだ。二代も空腹だろう?」
「言われてみれば、ぺこぺこで御座る」
 今、正純の家には、正純と二代以外に人はいない。正純の父親は、夜通し会合に出かけていたらしい。別に正純の父親がいたところで気兼ねする二代ではないが、二人きりの方が心地良いと言えば、心地良い。二人きりで特に何をするでもなく、一緒に食事をして、それぞれしたいことを寄り添ってして、ただ一緒のベッドで寝るだけなのだが、不思議なことだ。
 正純には不思議な力があると、二代は思う。
 正純といると、二代は何となく、体から力が抜けるのを感じる。父や母、鹿角たちといたときに、正純といる時だけは、戻れるのだ。それは三河にいた頃の二人にはなかったことで、その現象を何と呼ぶのかは、博識な正純にも分からないらしい。
 ただ、と二代は思う。
 正純といると心地良いから、自分は、もし結婚するなら正純だと、そう思うのだろう。
 正純といるのは心地良い。戦っているときの昂揚感とはまた違った幸せを感じる。こんな人間と結婚できれば、いつまでも一緒に暮らせればと、二代はそう思うのだ。
 だけど、と二代は考える。
 もし正純と結婚したら、彼女といる心地良さから抜け出せなくなってしまうのではないか、武器としての自分の刃は鈍ってしまうのではないかとも、思うことがある。
 正純と戦い。
 どちらも取れればいい。現に二代の父はそうしていた。
 それを難しいと感じるのは、二代がまだ、未熟だからだろうか。
「……二代?」
 名を呼ばれて、二代ははっと顔を上げた。
 そこにはすっかり着替え終えた正純がいて、やめたやめた、と二代は首を横に振る。考えるのは、二代には似合わない。それは正純の仕事だ。
「すっかり腹ペコで御座る。今日の朝食は何で御座るか?」
「白米と味噌汁と目玉焼きだ。二代には足りないかもしれないな」
「別に構わないで御座る」
 いつか、いつの日か。正純とずっと一緒にいられるようになったその時には、二代ももうきっと、未熟ではなくなっていることだろう。そうして、ホライゾンを守りながら、正純と一緒に暮らすのだ。
 それが今の二代の目標。
 そのために、まずは、
「朝食、拙者も手伝うで御座るよ」
 急いで着替えて、二代は正純の隣に並ぶ。
 そして、正純が驚くのにも構わず、ぎゅっと、彼女の掌を握り締めた。







書いてみました二代×正純!超ツボッたので!もっと書きたい!
お題は言葬様より。

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