00部屋参

□それぞれの愛の形
1ページ/1ページ




「護りたいんスよ」
 縁側に座った恋次は、膝の上に頬杖をついて、そう言った。
「護りたい。俺の手でありとあらゆるものから護りたいんス。でも、今の俺じゃあ護り切れない。俺の傍にいるよりもあの人の庇護下にいる方が、あいつは安全なんスよね。それくらいは俺も分かってるんスよ」
「それで?」
 髪をいじりながら、しかし興味深そうに、弓親が続きを促す。恋次は隣に置いてあった湯呑の中身をぐいっと飲んで、「だから」と自分自身に言い聞かせるようにして言った。
「だから、俺は強くなる。あの人よりも強く。そしたら、俺があいつを護ることができるから。そのために、俺は強くなるって決めたんスよ」
「ふうん」
 髪をいじる手を止めて、弓親は空を仰いだ。
「護るために強くなる、か。君らしいね」
 その誓いのために、彼はずっと生きてきたのだろう。強くなろうと鍛錬を重ねてきたのだろう。
 それは、弓親には、とても眩しい生き方だ。
 隣で、自分の掌を見つめる後輩に視線を転じて、弓親は、目を細める。
 少しの間、舞い降りる沈黙。
 すると、どすどすと足音がしたかと思うと、珍しくやちるを連れていない、更木が現れた。
「お前ら、こんなとこで何してんだ?」
 上司に訊かれて、弓親は意地悪気に笑って言う。
「恋愛相談を聴いていたんですよ」
「ちょっ、弓親さん」
「別にいいだろう、他人に言ったところで減るものでなし」
 にやにやと笑いながら、「そうだ」と弓親は手を叩いた。
「あのですね、隊長。今、好きな人を護りたいって話を一方的にするのを聴いていたんですけど、隊長も、そういう気持ちってあるんですか?」
「ん?」
「だから、たとえば、副隊長とか、そういう大事な人、好きな人を護りたいっていう気持ち」
 どうだろう、と弓親は更木の様子を窺う。このようなことを、この戦い一本の上司に問うのは初めてだ。
「あー……やちるのことは、護りてぇな」
「そうですか」
「でも、好きな女は……護りてぇっつーか、戦いてぇ。命懸けの殺し合いを、いつまでもやっていたいって感じだな」
 予想外の更木の言葉に、弓親と恋次は顔を見合わせる。
 更木に好きな女がいるだなんて、初耳だ。
「隊長らしいと言えば隊長らしいですけど……隊長と長時間戦っていられる女性なんて、いるんですか?」
「確かに」
「少なくとも、この護廷十三隊の誰かであることは間違いないですよね? そんな女性いたかな……」
 考え始める弓親と恋次。だが、一向に心当たりが浮かばない。
「隊長、それって誰のことッスか?」
 降参して恋次が尋ねると、更木は「ハッ」と笑い、こちらに背を向けた。
「言わねぇよ」
 そして、不満気な部下たちに見送られながら、ひっそりと口角の端を吊り上げる。
 そう、言うわけがない。
 彼女の強さは、自分一人が知っていればいいのだ。
 彼女と斬り合う人間は、自分一人でいいのだ。
 それは、独占欲。子供のような。昔から変わらない、彼女に対する想い。
 隊舎を出た更木は、空を見上げて、ふと思いつく。
「顔でも見に行くか……」
 それくらいでは誰にもバレないだろうと、彼は、確信していた。







と言うわけでまた剣卯です! 懲りません!
冒頭のきっかけが欲しかったので、恋次に語ってもらいました。勿論、好きな相手はルキアです。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ