00部屋参

□貴方のその傷を治すのは、私
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 寝台の横に置いた丸椅子に座り、卯ノ花は更木の眠る顔を見ていた。
 卯ノ花が更木につきっきりで看病するのを、何故かと問う者もいる。
 卯ノ花がかつての十一番隊隊長であり初代剣八であることを知る者も、今はそういなくなった。だから、皆不思議に思うのだろう。あの静謐な卯ノ花烈が、何故獣のような更木剣八と関わるのを好むのか、と。
 そんなとき、卯ノ花はこう答えるようにしている。
「怪我人には誰も彼もありません。全ての人の怪我を治すのが四番隊です」と。
 そうすると多くの者は納得し、それ以上立ち入ることをしなくなる。
 それでいいのだ、と卯ノ花は思う。
 彼女と更木の関係は特別だ。知る者はそう多くなくていい、むしろ少ない方がいい。
 そんなことを考えながら卯ノ花が更木を見ていると、彼の目蓋がぴくりと動いた。やがて、ゆっくりと目が開けられ、更木と卯ノ花の目が合う。
「……あんたか」
「目が覚めたようですね」
「ああ」
「ここは?」
「四番隊舎です。覚えていませんか? 怪我を負った貴方は、四番隊舎内の私の部屋の前まで、自力でやって来られたのですよ。もっとも、貴方の霊圧を感じて私が戸を開けたときには、貴方はもう意識を失っていましたが」
「……そうか」
 卯ノ花から目を逸らし、更木は天井を見上げた。その横顔に、卯ノ花は問いかける。
「今日も派手に戦ってきたようですね。お相手はどうでした?」
「そこそこ、だったな。でも愉しかった。……この話はいい」
「おや、どうしてですか?」
「愉しくても、どんなに愉しくても、あんたと戦ったときほどじゃない」
「これはこれは、嬉しい言葉をどうも」
 そう言った卯ノ花の表情が、一瞬、戦慄するほどの美しさを孕んだ昏い笑みに変わる。その顔に、更木はうっとりと目を細めた。
「あんたのその顔、あんたを聖女みたいに思っている連中が見たら、泣くぞ」
 だけど、それでいいのだ。彼女のそんな顔を知る人間は自分だけでいい。更木はそんなことを思う。
 そして、更木がそう思っていることを、卯ノ花は知っている。知っていて、可愛い人だ、と思うのだ。
「いつまでいる気だ?」
 唐突に、更木が問うた。
「隊長がこんなに一所にいていいのか?」
 その質問に対し、卯ノ花はいつもの穏やかな表情に戻って、「大丈夫です」と断言した。
「戦時ならともかく、平時には、私が出るほどの複雑な怪我はそう起きません。四番隊の人間は優秀ですから」
 それに、と彼女は続ける。
「貴方のためなら、どんな怪我も放り出して来ますよ」
 そして、更木の硬い髪に触れて、微笑んだ。
「どんな些細な怪我でも、怪我をしたら、私のところに来てくださいね」
 その、今度は天女のようなそれに、更木は一瞬目を奪われる。
「貴方の怪我を治すのは、私ですから」
 そう言われて、更木は無言で手を伸ばすと、卯ノ花の後頭部を掴んで引き寄せた。
「っ」
 更木の唇と卯ノ花の唇が束の間触れ合って、離れる。
「嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか」
 卯ノ花を解放した更木は、そう言って笑った。
「その気になんだろ」
「今日は駄目です。動いたら傷が開きますから」
「そしたら、また治してくれんだろ」
「……莫迦」
 卯ノ花が、手を伸ばして、更木の頬を抓る。戯れるようなそれに、更木は目を細めて、その手に舌を這わせた。
「いいだろ」
「貴方は言っても聞きませんから」
 卯ノ花が羽織を脱ぐ間も惜しく、更木は彼女を抱き寄せる。そして、今度は深く深く、彼女の唇を奪った。







一日に二本剣卯を書くことになるとは……。バイトの面接に向かってチャリを漕ぎながら、考えてました。
しかし私の小説ってキスで終わる小説が多いですよね。

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