その七

□可哀想な大人と子供
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「馬鹿だよなあ、お前たちは」
 俺に寄り添って眠る子供たちの頭を撫でてやりながら、俺は小さな声で呟く。
 子供たち――アレルヤ、ティエリア、刹那。年齢的にはもう子供というのには無理があるかもしれないけれど、紛れもなく、三人は子供だ。子供のように純粋で、まっすぐで、曇りを知らない。
「まったく、可愛い奴らだよ」
 俺の胸に耳を当てるようにして身を丸くしているティエリアの髪を梳いてやると、背中の方から抱きついて来ていた刹那が、うう、と唸った。起こしてしまっただろうかと首を動かすと、そうではなかったらしい。ぎゅっと俺の背に顔を埋めて、ぐりぐりと頬をこすりつけている。まるで動物みたいな様子に、思わず頬が緩んだ。
「お前らなあ」
 苦しいだろうと思い、左手でそれを少し離してやる。けれど、またすぐに戻ってきてしまった。よほどその姿勢が気に入ったのだろうか。放っておいて姿勢を戻すと、ティエリアの向こうから伸ばした手でしっかりと俺の頬に触れていたアレルヤが、ふにゃりと微笑んだ。ティエリアがいなければ、もっとすり寄って来ていたことだろう。
 ああ、本当に子供みたいだ。それとも、恐れを知らないペットだろうか。
 俺はこいつらの保護者だ。そして同時に、多分、飼い主。ガンダムマイスターになった頃は、まさかこんなことになろうとは思ってもいなかった。
 確かに俺は、よくモテた。女性なら年上から年下まで、面倒見が良いからか、子供にもよく好かれた。だけど、それがまさか、十歳も年の違わない男たちにここまで懐かれるなんて、一体誰が思うだろうか。
「可哀相」
 思わず唇から漏れ出た言葉に、やり切れなくて目を閉じる。
 そう、可哀相なのだ。
 この子供たちは、とても、綺麗だ。まっすぐで純粋で無垢で、何よりも愛を知らない。だから、こんなに簡単に、騙されてしまう。俺が作り上げた、俺が振りまく、紛い物の優しさに。
 この子供たちは、疑いを知らない。
 一度信じたものは、最後まで信じ通すのだ。
 それが良いことなのか悪いことなのか、俺には分からない。でも、できることなら、その美しさを失わずにいてほしいと思う。これは、俺の勝手なエゴなのだろうか。
 だって、一番可哀相なのは、俺自身なのだ。
 俺の代わりなんていくらでもいる。そう分かっているのに、こんなにも、この子供たちからの愛情が嬉しいのだから。


(でも、今はただ、眠ろう)
(お前たちが目を覚ますまでずっと、俺は、お前たちが願うままの俺でいたいと思うから)








ニールはきっとこんな風に思っていたのだろうけれど、そんなことない、と最近になって思う。
マイスターズだってそこまで馬鹿じゃない。彼らがニールを信じたのは、彼が紛い物だと信じる優しさの中に、本物の優しさと愛情を見つけたから。
そんな風に、思う。

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