その七

□あなたの料理が食べたいのです
1ページ/1ページ




「アレルヤ、料理得意なんだなあ」
 意外だ、と呟くと、「僕の方こそ」とアレルヤが微笑んだ。
「ロックオンが料理をしない人だなんて、意外です」
「そうか?」
「ロックオンなら何でもできる気がして……」
「何だよ、器用貧乏ってことか?」
「ち、違いますよ!」
「ははっ、冗談だって」
 ぽんぽんとアレルヤの頭を叩いてやると、アレルヤは気恥かしげに視線を逸らした。子供のような素振りに、純粋に、可愛い奴だと思う。料理ができないからと追い払われた連中のことは、無視だ、無視。構ってやってる暇はない。
 しゅるしゅるとジャガイモの皮を剥いていたアレルヤは、俺がざくざくと玉ねぎを刻んで行く様子を見ながら、あれ、と首を傾げた。
「やらない割には、できるんですね」
「ああ、まあ、器用なのは確かだからな」
「そうなんですか。ところで、どうして僕が料理できることを意外だと思うんですか?」
「いや、それはこっちの話」
 苦笑して見せて、目からこぼれた涙を拭う。「大丈夫ですか!」とか言って誰かさんが寄って来る前に。
「これでいいか?」
「はい」
 俺がアレルヤを料理下手だと思っていたのは、単純に、料理をした経験がないだろうと思っていたからだ。あと、アレルヤはそれほど味にこだわらないタイプだろうと思っていた、というのもある。ところがどっこい、アレルヤは料理好きだった。多分、何かを作ると言う行為自体が好きなのだろう。根は優しい奴だから、それが誰かのためというのなら余計頑張るのかもしれない。
「じゃあ、肉炒めるな」
「了解」
 フライパンに油をひいて、肉を投入する。食べ盛りが二人もいるので、肉は多めだ。じゅっと油が跳ねた。
「ロックオンは、料理とかしなかったんですか?」
「する必要もなかったからなあ」
「……そうなんですか」
「大体はかわいこちゃんに作ってもらってたしな」
 意地の悪い冗談を投げかけてやると、火が着いたように顔が赤くなる。狼狽する様子が若干可哀相だったので、すぐに「冗談だよ」と言ってやった。
「独り暮らしだと、料理すんのが面倒になるだけ。ジャンクフードだけ食べてても、生きていけないわけじゃないしな」
「あっ……、そういうことですか」
「あとはまあ、忙しすぎて作る暇もなかったし」
「へえ。……あの、」
「ん?」
「……何でもないです」
 言い淀んで顔を背ける仕草から、アレルヤが何を言いたいと思ったのかは大体分かった。ここに入るまでの俺の話、だろう。別にそれほど守秘義務に引っ掛かるような話じゃないし、アレルヤの過去もある程度は知ってるからなあ、とは思ったけど、進んで言いたい話ではない。気付かなかったふりをして、俺は肉を炒め続ける。
「でも、アレルヤが料理できて良かった。俺がマスターしなきゃならないんじゃないかとひやひやしてたぜ」
 刹那は味に頓着しないし、ティエリアはそもそも料理の何たるかを分かっていない。向こうの方で手持無沙汰にこちらを見ている二人に微笑んでやると、二人はふいっと視線を逸らした。何だかんだで楽しみらしい。成長したよなあ、二人とも。
「いえ、僕はロックオンにも料理をできるようになってほしいです」
「へ?」
「だって、」
 野菜を刻む手を止めたアレルヤは、前髪で隠れた頬も全部まとめて赤くして、ごにょごにょ、と口にした。
「……僕が、ロックオンの手料理を食べてみたいから」
 それを耳にした瞬間、俺の手からがらりと木べらが落ちる。
「あのなあ、アレルヤッ」
 恥ずかしいこと言うな、と言ってやりたかったけど、言うに言えなかった。それに続いた言葉が、子供のように無邪気だったから。
「楽しみにしてますね、ロックオン」
 畜生、そんなこと言われたら、マスターせざるをえないじゃねぇかよ!







天然タラシなアレルヤの話。
時期的には第一期EDで、あまりにもティエリアが料理下手なために見兼ねた兄貴が入れ替わった、みたいな。
以前、某誌に載っていた料理できる順番を参照。ニールができないのはともかく、アレルヤが得意というのがちょっと意外だったので……妄想。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ