その七

□幽霊だとか心霊だとか
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「みー、大丈夫?」
「え、う、うん……」
「……あっ」
「な、なに!? なに、どうしたの玲!!」
「いや、驚かしただけ」
「何それ……本当に性格悪いよ、玲って……」

 怖さを誤魔化すためなのか、前の方を歩く三人がくだらない会話をしている。 
 それを見ながら、後ろの五葉と紫音は言葉を交わした。

「迷うわけにはいかないな」
「そうだな。正直、この人数でまとまっていたとしても、帰れないかもしれないよ。暗いと、明るいときとは大分違うし」
「……ああ」
「紫音、顔色悪いよ。にしても、正斗が先頭は間違いだったかもな。あいつ、方向音痴だし」
「……!」

 一見怖がっていないかのような五葉だが、彼はかなりのビビりである。
 絶叫系の乗り物が嫌い。スプラッタ映画も駄目。ついでに言えば、ホラー映画も見ない。スプラッタもホラーも、文字で見る分には問題ないそうだが、映像化すると駄目らしい。
 暗い廊下を見ながら、「なんかさあ」と彼は呟いた。

「いると思うから、怖いんだよな」

 その目が泳いでいるのは、誰の気のせいでもない。
 皆乃のように堂々と怯えてはいないが、かなりビクビクしている。口に出さないのは、せめてものプライドである。
 ちなみに、その他のメンバーも、決して怖くないわけではない。
 目に見えて周囲を気にしているのは紫音。彼も怖がりな方である。ただし、何かあったときに皆を引っ張って逃げるのは自分の役目だと承知しており、更には自分が落ち着かなくてはと思っているので、できるだけ仕草に見せないようにしている。勿論、その体が時々震えていることは、隣にいる五葉にはバレテいるが。
 そして、玲も若干いつもより元気がない。絶えず周囲に気を配っている。人をからかっているのも、自分が怯えているのを隠しているようにも見える。
 例外は正斗であるが、彼にはまた少し特殊な事情がある。おいおい明かされていくので、ここでは明記はしないが。








 歩いていると、一行は図書館に辿り着いた。
 誰からともなく、呟く声。


「第一の不思議は、学校の図書館で本を借りる二宮金次郎……」


「……」
「……」
「なあ、この際俺は恥を捨てて言うけど、帰りたい」
「……しーちゃん」
「錯乱しているところを見られるよりはましだろ? 帰りたい」
「僕も……そろそろ無理かも」

 弱音を口にする紫音と皆乃。
 しかし、ガラガラとドアを開ける音がした。

「!?」

 見ると、ドアを開けたのは五葉である。

「五葉!?」
「おまえ、嫌がってなかった!?」
「いや……だって、さ」

 振り向きながら、曖昧な笑顔で彼は言う。

「怖いけど、それに好奇心が打ち勝ってしまうのが、人間だろう?」
「ぎゃー、こういうときに変人は!」

 ドン引きしたのは玲。
 しかし、このまま帰るわけにもいかない。
 一行は、覚悟して図書館内に足を踏み入れた。

「……暗いな」
「電気つけるか」
「僕がつけるよ」
「ん、よろしく」
「正斗、ついて来て」
「おっけー」

 壁を手探りで進み、電気のスイッチを探す皆乃と正斗。
 しかし、彼が電気をつけるよりも先に、ぼそりと玲が言った。

「……何か、動いてないか?」
「「「「え?」」」」
「いや、よくは見えないんだけど……」

 彼が言葉を濁すと同時、室内に電気が点く。
 全員が室内を見回し、確認。
 安心したように、紫音が言った。

「なんだ、何もいないじゃないか……」
「良かった……」

 しかし、その安堵感を瞬時に壊すかのように、少し怖々とした声で、正斗が室内の床を指さす。

「ねえ、あれ……」

 ただならぬ彼の様子に、その指が指し示す方向を見る残りの四人。



 薪が、落ちていた。



「……っ」

 声にならない悲鳴を皆乃があげて、脱力といった感じでふらついた五葉が、傍にあった机に掴まる。
 室内には、確かに何もいない。
 でも、あるのだ。
 薪が。


「……嘘、だ」

 
 誰でもなく、むしろ五人が、そう口にする。






 夜は、始まったばかりだった。














「……金次郎さんに遭遇したか」

 その様子を見ていた少年は、嘆息しながらそう言った。
 始まった。
 七不思議が、悪夢の夜が。
 少年がいるのは、校内であり校内ではない。少なくとも、彼らの姿は五人には映らないはずだ。

「七不思議は、七つ」

 少年の声が、誰もいないその場に木霊する。










「あと、六つだ」
























―アトガキ
わりとホラー目になりました第二話。
怖がり方は本人から聞いた話と、あとは私の想像です。五葉に関してはがち事実。
正斗の話については、おいおい明かされていくかと……。多分、書き手陣には分かると思いますが。
これを書きながら、陰陽座のベストを聴いているわけです。
家族はみんな寝そうです。
……怖い、です。
むしろ私が怖い。
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