その七

□全身全霊がすでに貴方のもの
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 たとえば、と俺は思う。
 俺は殺される。一つの個体が殺され、その肉体は生命活動を停止する。
 さて、ここで魂というものが存在するとして考えてみよう。
 それでは、殺された俺の魂というものは、一体何処へ行くのだろうか。




「グラハムさん、グラハムさんは魂って信じますか?」
「む、シャフトのくせにいきなり何だ」
「だから魂を信じるかって話ですよ」
「魂、か」

 お気に入りの巨大モンキーレンチでパシリと自分の手を叩きながら、グラハムさんはぐるりと首を回す。同時に目もぐるり。真っ青な眼球が円を描く様子は、酷く気味が悪い。
 この人に魂はあるのだろうか。
 ないかもしれない。いや、あるのかもしれない。どちらにせよ、この人がこんな人間なのはこの人がそうであるからだし、あまり関係はないだろうけど。
 たいていの人間には、魂などあろうとなかろうと関係がないのだ。

「楽しい、楽しい話だな。何が楽しいかと言えば、シャフトが珍しく俺の心を躍らせる言葉を口にしたからだ。魂はあるのか? それともないのか? それは神を信じるか信じないかという問題じゃないのか? つまりシャフトは非常に難しい問題を俺に投げかけてきたというわけだ。ん? もしかして、俺は頭が悪いから答えられないんじゃないかと、そうシャフトは思っているんじゃないのか?」
「思ってませんよ。ただ単にグラハムさんの考えが聴きたいだけです」
「怪しい!」
「うわっ! レンチ投げないでくださいよ!」

 テンションの上昇とともに飛んできたレンチから逃げる。再びレンチが自分の手の中に戻ると、それを今度は自分の頭上に向かって投げて、グラハムさんは俺を見た。

「お前はどう思うんだ?」

 考えもしなかった質問に、俺の目が点になる。

「……俺が、ですか?」
「そうだ。俺に疑問を投げかけてきたんだから、お前だって何かしら考えているんだろう?」
「……俺は、」

 銀を目で追って、それからグラハムさんの姿を映す。
 青くて青くて深い目。
 魂は。
 俺の魂は。

「あってほしいなと、思いますよ」
「思うだけか」
「だって、あるだなんて言い切れないじゃないですか」
「俺も言い切る気はない。ただあると思うからあると言い切るだけだ。違うか? 真実というヤツは、誰にも分からないから真実なんだろう?」
「……格好良いこと言いますね」
「素直に言われると気持ち悪いな」
「何ですか、それ」





 この俺の、シャフトという個体の魂だけは、この人に預けていこう。




   

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