その七

□迷惑な思いつき
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 それは、いつものように、呉用が塾で先生をしていたときのこと。
 愛も変わらず二日酔いで安道全の世話になっていた晁蓋は、キャベジンを飲んでから、帰ろうとする安道全の背中にこう声をかけた。
「……お前って確か、神医だったよな?」
「馬鹿に付ける薬はまだ完成しておらんぞ」
 間髪入れずにそう返され、彼は盛大に苦笑する。
「いや、そうじゃなくてだな……」
「何だ?」
「神医だったらほら、ああいう薬もお手の物だろ?」
「……ああいう薬?」


「媚薬とか、そういう」


「却下。犯罪に加担する気はない」
「いや、犯罪じゃないって。合意の際に使うだけだから」
「お前の合意なんて、半ば無理やり流れで行うくらいのことだろう」
「……うっ」
 子供とは思えない鋭いツッコミに、晁蓋は言葉に詰まる。それは確かに、いつものパターンなのだ。
 しかし、ここで子供だと思っていることを気取らせるわけにはいかない。遠い目で窓の外を見ながら、晁蓋は嘆息した。
「女相手には、もっとちゃんとやれるんだけどな……」
 相手をハッキリと言ってしまっているようなものである。
 しかし、あからさま過ぎる晁蓋の態度のせいで全てを知ることになってしまっていた安道全は、今更どうとも思わなかった。ただ、密かに呉用に対して同情しただけで。
 頭の悪すぎる友人兼恋人を持つと大変だな、と。
「大体、貴様のせいで呉用に薬を処方する身にもなってみろ。頭痛や胃痛が絶えないからと、鎮痛剤を大量に用意しておかねばならんのだぞ」
「それはそれ、これはこれと」
「呉用からは、全て晁蓋につけろと言われておるがな」
「……え!?」
「保正なのだから、そのくらいの金はあるだろう?」
「……呉用の奴、そこらは相変わらず頭が切れるよな……」
 不意打ちには弱いくせに、という晁蓋のノロケに近い呟きを聞かなかったことにして、「とにかく」と安道全は立ち上がった。
「帰るぞ」
「いや、待てって。頼む待ってくれ」
「貴様の頭の悪い悩みには付き合っておれん。次の薬を調合しておった方が数千倍良い」
 すげなく返し、しかし、薛永の肩に乗ったところで、「というか」と安道全は振り返った。
「怪しげな薬を遣うより何より、酒を飲ませれば良いだけの話であろう」
「……あ」
 思い当らなかったその方法に、ポンと晁蓋は手を叩く。酒に強い人間というものは、えてして酒に弱い人間がいることを忘れるものである。
「その手があったか」
 うんうん、と納得したように頷く晁蓋を尻目に、今度こそ安道全は家を出て、一人ため息をついた。
「まあ、あの呉用が、晁蓋に勧められたからと言って酒を飲むとは思えんがな……」
 どころか、魂胆を知られて説教されるのがオチである。
 まあ、晁蓋の狼っぷりを改めて確かめるのも、呉用には必要だろう。慣れとは恐ろしいものだから。




 そして、晁蓋が呉用に平手打ちを食らうのは、その数日後の話。












(キャラが掴めてないのに書くもんじゃないと再確認しました)
(呉用可愛いですよ呉用。絶対に酒には弱いに違いない)

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