その七

□夏が浸食
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 柔らかい金糸がふわふわと浮いている。水面をたゆたう光。日の光を反射して、きらきらと輝いて、眩しい。
 水と同色のガラス玉を覆う目蓋が、長い睫毛を上下させる。
 日に焼けることのないミルク色の肌が、海月のように海の中に浮かんでいた。
 その光景を、男――クレアは、飽きることなく眺める。
 ぼうとしながら水に身を任せているグラハムの姿は、口を開いているときからは想像もできないほどに美しい。服を着たままだから、全身が水に浸食されているように見える。黒い服から覗く白い肩が艶めかしい。
 何もかも、クレアとは違う青年。
 だけど、何処か似ている二人。その関係は、合わさらない歯車のようだ。



「グラハム」


 そう名前を呼ぼうとして、クレアはやめた。
 この光景を、しばらくじっと見ていたい。
 ざば、と水から上がった右手が、そっと空に伸びる。腕を伝って雫が落ちていくが、グラハムがそれを気にした様子はない。熱に浮かされたかのように、ぼんやりとした表情をしているだけだ。
 その手がこちらに伸びてきているように見えたから、クレアは同じように手を伸ばした。
 そして、しっかりと、剥き出しの白い手の平を掴む。



「グラハム」


 名前を呼ぶと、薄い唇が、歪んだ。


「お前、夏が似合うな」


 まだ夢うつつのようなグラハムの言葉に、クレアは苦笑する。


「太陽みたいだ」


 それはお前の方だろう。言おうとした言葉を、静かに彼は呑み込む。
 代わりに、優しく唇を重ねた。




 夏の味が、したような気がした。







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