その七
□戴林ログ置き場
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落ちてくる橙と
目が合った。
「……正門から入りなさい」
正しく言えば、落ちてきたのではなく飛び降りて来たのだ。林冲はそれをよく知っている。だから、心配など微塵もせず――逆に苛立ちを含んだ声で、目の前の戴宋に声をかけた。
「何度言えば分かるんですか」
しかし、戴宋は一向に構うことなく、制服のズボンに付着した砂埃を払う。そして、今しがた越えて来たばかりの塀を見ながら、いつものように返事をした。
「おたくにゃ関係ないだろ」
「どうせまた喧嘩でもしたんでしょう」
「ナンパしてきた相手をボコボコにした風紀委員には、言われたくねぇな」
「な……っ」
何故それを。
そう言おうとして、林冲は口を噤む。代わりに、くるりと踵を返して歩き出した。
「君も早く教室に戻りなさい。授業が始まります」
「ふうん、授業ね」
その長い黒髪を、ぐいと引っ張る戴宋。
「……なんですか」
歩行を邪魔された林冲が振り返ると、彼は二ヤリと笑って見せた。
「なあ」
「離しなさい」
「ヤだね」
引き寄せられた林冲が、その腕の中に収められると同時。
チャイムの音がその場に鳴り響いた。
「! 授業が」
「別に良いだろ、そんなの」
「良くありません! 王進様の授業だったのに……」
「あのなあ、」
呆れたようにため息をついた戴宋が、林冲の頬に指を当てる。
「ちょっとはこの状況を意識してくれなきゃ、さびしーんだけどな」
「どういう意味ですか!」
「こういう意味」
声を食らうように唇を重ねると、林冲は、その目を大きく見開いた。
(情熱だけが先走ってろくな話になっていないっ)