その七
□このままずっと貴方の隣りで
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「月島さん、荷物持つよ」
俺がそう言うと、月島さんは「いいのかい?」と目を丸くした。
「一護君、今も荷物でいっぱいじゃないか」
「こんくらい平気だ」
言いながら、ほとんど奪うようにして俺は月島さんから荷物を受け取る。されるがままになっていた月島さんは、俺の手を見てしみじみと言った。
「……一護君も大人になったね」
「そうか?」
改めて言われると、なんだか照れくさい。少し前を歩く月島さんの背中を見つめるようにして、俺は目を細める。
「月島さん」
「何だい」
「また、面白い本教えてくれよ」
「そうだね……」
振り向いた月島さんの顔は、上機嫌に見えた。
「一護君が本を読んでくれるようになるなんて、嬉しいよ」
正直言って、俺は今も昔も本には興味がない。
興味があるのは、月島さんにだ。
月島さんのことが知りたいから、俺は、月島さんの好きな本を読む。大好きな月島さんのことを、もっとよく知るために。
「何をお勧めしようかな」
子供のように笑って、月島さんは考える顔をする。その横に並んで、俺は、月島さんの横顔を見つめた。
もうすぐで、家に着いてしまう。家に着いたら、月島さんは遊子や夏梨に囲まれて、俺が入る隙間なんてなくなってしまうのだろう。俺が月島さんを独占できるのは、こうやって二人で出掛けたときか、本を読み終わったときくらいのものだ
俺は、空を見上げた。
空には小さな三日月が出ている。それを月島さんに教えてやると、「……本当だ」と言って彼は目を細めた。
「綺麗だね」
「ああ」
このまま、この美しい月とともに、月島さんと二人だけの世界になってしまいたい。そんなことを思いながら、俺も、月のことを眺めていた。
やってしまった一月。一護は完現術で記憶を挟まれています。