00部屋その六

□ずるい人、
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 ずるい人だ。
「ねえ、膝枕してよ」
 そんなこと言われて、俺が断れるはずがないのに。





「……臨也さん」
 名前を呼ぶと、貴方がその長い睫毛の帳を開く。きらり、と覗くのは赤い瞳。その美しさに、胸がぎゅっと切なくなる。
「俺なんかの膝枕で、いいんですか」
「良いも悪いも、望んだのは俺だよ」
 くすり、と笑う顔だけは素敵だ。俺は平静を装って、貴方の温もりに動揺する内心をしまい込む。
「でも俺、男ですよ」
「女の子が良かったら、とっくに沙樹ちゃんにでも頼んでるよ」
「沙樹の名前を出さないでください」
「おや、嫉妬かな?」
 楽しげにする貴方の髪を引っ張ってやりたい。でも、そんな勇気はないのだ。
 分かっている。貴方は俺をからかって遊んでいりだけなのだろう。そうして心の底から信じている。そうしたら俺が嫌がるのだと。
 貴方は全然分かっていない。
 知っていますか。貴方が触れるたび、俺の心臓がどくんと波打つのを。知っていますか。貴方のことを、誰にも渡したくないって思っていることを。
 叶わないのは分かっている。
「……うるさくしたら、膝枕、やめますよ」
 だから、もう少しの間だけ、何も知らない貴方を俺に独り占めさせて。







茶葉さんからのリクエストで正臨。甘い話のつもりだったのに、見事に撃沈。

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