00部屋その六

□君が嬉しいだけで嬉しいとかそういう、
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「雪緒、あんたもっと食べなさいよ」
 ドーナツを食べながらのリルカの言葉に、僕はゲームから画面から目を離さずに答えた。
「いらないよ」
「なんでよ。そんなんだからちっさいのよ」
「余計なお世話だよ」
 僕は今、リルカと一緒にドーナツ屋に来ている。と言うか、リルカの買い物に無理矢理付き合わされている。
 リルカは時々、こうして僕を連れて買い物に出る。お姫様気取りなのかもしれない。なんにしろ、僕はその間暇で暇で仕方がないから、こうして店の中に入ったときは、すかさずゲームをするようにしている。
 ワンステージクリア。セーブしますか? セーブする。
 僕はゲームの画面から目を離してコーヒーを飲んだ。ミルクと砂糖がたっぷりと入ったコーヒー。リルカほどじゃないけれど、僕も甘いものが好きだ。というより、苦いものが苦手だ。
「ねえ、雪緒」
 リルカに名前を呼ばれて、僕は仕方がなくそちらを見た。
「なに?」
「これ、一口あげる」
 差し出されたのは、ピンク色のアイシングがかかった大きなドーナツ。見ているだけで胸やけがしそうなそれに、僕は思わず即答した。
「いらないよ」
「あたしがあげるって言ってるんだから、素直に食べなさいよ」
「いらないって」
「一口でいいから」
「……分かった」
 押しの強いリルカに僕が流されるのは、いつものパターン。ピンク色の着色料ごとドーナツを口に入れると、甘ったるく口の中で溶けた。
「どう?」
「別に」
「何か言うことあるでしょ。美味しいとか、ありがとうとか」
「ありがとうも何も、リルカが無理矢理食べさせてきたじゃんか」
「うるっさいわね」
 僕が食べかけたドーナツを、はぐっとくわえてリルカは黙る。
 ああ、やっと静かになった。
「ねえ、リルカ」
「ん?」
「あれ、リルカが一番気に入ってる味でしょ」
「……」
「なんで僕にくれたの?」
 煩わしいのに、つまらないのに、それでもリルカが嬉しいだけで嬉しいとか思っている僕は、もう相当重症に違いない。





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