00部屋その六

□だから少しは僕に甘えて
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 黒崎が僕の家にやって来たのは、夜も十一時を過ぎた頃だった。
「入れてくれねぇか」
 そう言って、黒崎は笑った。だから、僕も追い返せなかった。
「近くまで来たんだ」
 と黒崎は言った。僕はそれが嘘だと気付いていたけど、何も言わなかった。
「寝るところだったのか? 悪ぃな」
「……別に」
 僕の部屋の真ん中に敷かれた布団を見て、黒崎が片眉を上げる。普段なら帰れと言うところだけれど、今日だけはそう言わず、僕は黒崎の目を見た。
「泊まっていくかい?」
「え……いいのか?」
「いいよ」
 一旦出た布団に入り直して、僕は黒崎の顔を見つめる。向かい合うように横に来た黒崎は、ごろりと横になると、僕から目を逸らした。
「……なあ、石田」
「何だい」
「……やっぱ、何でもねぇよ」
 黒崎が言いたいことを、僕は知っている。
 黒崎は、あの戦いの後、霊力を失った。今では虚も見えない。黒崎の代わりに、僕が戦っている。
 黒崎は、それを心の何処かで受け入れられずにいる。
 いつでも、誰よりも前で戦ってきた黒崎だから。ずっと誰かを守るために戦い続けてきた黒崎だから。だから、その事実を受け入れられないのだろう。
 今日も、そのことが悔しくてどうにもできなくなって、僕の家まで来たに違いない。
「ねえ、黒崎」
 僕は手を伸ばして、日に焼けた黒崎の頬に触れた。
「布団、入るかい?」
 そう誘いをかけると、ブラウンの目が大きく見開かれる。
「……石田?」
「何もかけないままだったら寒いだろう? 空いているから、入りなよ」
「え、でも……」
「いいから」
 ほら、と僕は黒崎に微笑む。ちゃんと笑えただろうか。そんなことが不安になった。
「なんか、今日の石田おかしいぞ?」
「……君が、そんな顔してるからだよ」
「そんな顔って……」
「黒崎」
 布団に入るのを躊躇う黒崎の手を引いて、僕は強引に黒崎を布団へと引きずり込んだ。居心地悪そうに身を捩る黒崎を見遣って、その背にそっと腕を回す。
「僕にだったら何を言ってもいい。僕たちは元々敵同士なんだから」
 こんな言い方しかできないのが恨めしい。
「僕にもっと弱味を見せてくれ」
 なあ黒崎、もっと僕に甘えてくれよ。
 君ひとり支える力くらい、僕にだってあるのだから。







原作読んでてたぎった!

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