00部屋その六

□いつか思い出しますように
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「銀城」
 名前を呼ぶと、強い目が僕を映した。
「何だ?」
「何でも」
 僕の目下の悩み事。僕が銀城の敵になったら、恋人であるという事実もそれに呑み込まれてしまうのだろうかということ。この年になって恥ずかしい話だが、僕はそれを本気で恐れている。計画のためには仕方がないか、とは思う。だが、その一方で、諦められない女々しい僕もいた。
「銀城」
「だから何だよ」
 振り向いた顎を捕らえ、こちらに引き寄せて口付ける。淡白な僕にしては珍しい行動。煽られた銀城は案の定乗ってきて、何度か軽い口付けを交わす間もなく、あっという間に深い口付けが与えられる。いつもなら満足するところだけど、今日は何だかそれだけじゃ物足りなくて、銀城の唇を必死になって追いかけた。まるで、少女のように。
「珍しいな」
「何が?」
「お前が積極的になるなんて」
 腰に回った銀城の手が、腰骨のあたりをざらりと撫でる。無骨な男の手の感触。僕は銀城の首に噛みついて、ねえ、と囁いた。
「しようよ」
 らしくもない、性急な誘い。銀城は予想外の僕の行動に一層煽られたらしく、笑みを深くして僕を抱き寄せた。
「本当に珍しいな。どうかしたか?」
「別に」
「嘘つけ」
「嘘じゃないよ」
 ただ、銀城が欲しかっただけ。そう嘯いて、僕は銀城にすり寄った。
 いつか、僕たちが敵同士になったその先に。僕の体温を思い出してほしい。少しだけでいい。時折ふっと僕の熱を思い出して、僕の匂いを懐かしがってくれればいい。
 そして、また。
 もう一度僕を愛しておくれよ、ねえ、銀城。






この二人はなんかアダルティ―になる。

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