00部屋その六

□繰り返されるこの日常の中で
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※ウルキオラ生まれ変わりパロディです。





「はい、今日の診察は終わりだよ」
 そう言って、目の前の医師は微笑んだ。
「日に日に良くなっているのは間違いない。この調子なら、一か月以内に退院できるよ」
「そうか……」
 目の前の医師の名前は石田雨竜。この病院の院長の息子だそうだ。専門は内科医と外科医。とても精密な手術をするのだと、何かで聞いたことがある。
「じゃあ、僕はこれで」
 そう言って、石田雨竜は立ち去った。見送った俺は、腹に巻かれた包帯を見下ろす。手術から二週間。体は順調に回復しているらしい。だが、帰ったところで親は喜ばないだろう。むしろ顔を歪めるかもしれない。とんだ邪魔者が帰って来た、と。
 俺の心は冷えている。石のように、鉄のように。
 そうしたのは両親だった。
 俺が生まれたときから、両親は俺のことに関心がなかった。生まれたばかりの俺は育児放棄され、何故育ったのかが不思議なほどだったらしい。小学校に入る頃には一通りの家事を覚え、滅多に帰って来ない親とはほとんど他人同士のようになった。渡される金の中でやりくりしているうちに、体はどんどん軽くなった。倒れたのは、それが原因でもあった。
「おはよー」
 しばらくして、病室のドアが開く。入って来た看護師は、三十代の前半。ふわりとした雰囲気を持った、美しい女だ。
「井上」
 挨拶の代りに名前を呼ぶと、看護師――井上は、にっこりと笑顔になった。
「今日はね、図書館で本を借りて来たんだよ」
「またお前の好きな本ばかりなのだろう?」
「今回はお菓子の本を借りて着てみましたー」
「やはりな」
「ええ、でもお菓子の本って素敵だよ。読んでるだけで食べたような気持ちになれるもん」
 ほら、一緒に読もう。そう言って、井上は本を広げる。体温計を受けとって脇に差した俺は、されるがままに本を眺めた。
 マドレーヌ、ロールケーキ、マカロン。
 俺には縁のなかった甘い物たち。
「……甘そうだな」
「うん。でもとっても美味しいんだよ。石田くんから許可が出たら、また持って来るね」
 井上も、子供の頃は俺とそう変わらぬ環境だったそうだ。前に本人からそう聞いた。俺に構ってくるのは、それが原因なのかもしれない。
 しばらく一緒になって本を眺め、井上があれこれ言うのに耳を傾ける。そうしていると、がらり、とまた病室のドアが開いた。
「よう」
 現れたのは、オレンジ色の頭をした井上と年の変わらぬ男。
「一護」
 名を呼ぶと、奴はにっと笑った。
「やっと覚えたな、名前」
「お前がしつこいからだ」
「何読んでるんだ?」
「お菓子の本だよ」
 奴――黒崎一護は、別に病院の関係者ではない。井上や石田雨竜の知り合いではあるようだが。
 そんな奴が何故毎日この病院に来ているのかというと、道で倒れた俺を病院まで運んだのが、この黒崎一護だからだった。
 俺が考えるに、それだけではない。
「一護」
「ん?」
「お前の知る俺によく似た男は、菓子が好きだったのか?」
 黒崎一護も井上も、俺によく似た男を知っているのだそうだった。二人が俺のことをこうも構うのは、だからだろう。
 その男がどんな人間だったのか、俺はよく知らない。
「んー、どっちかって言うと嫌いそうだったな。まあ、食べたことないみたいだったけど」
「俺も食べたことがない」
「マジかよ。今度買ってやる。何が食べたい?」
「……これ」
「マカロン? お前、意外と餓鬼っぽいな」
「色が、綺麗だ」
 よくは知らない。でも、感謝はしている。
「……あいつも、そんなこと言ったのかな」
「言ったのだろう。お前たちといれば」
「そっか」
 俺の頭に手を置いた黒崎一護が、くしゃくしゃと俺の髪を乱す。やめろ、と言いながらも、そこから熱が回っていくようで、心地良かった。




 俺の心は冷えている。石のように、鉄のように。
 だが、このうるさい大人たちのおかげで、少しずつ、温もりを得ているところだ。









妄想! こうなってほしい!
チャドだけ出せなかった……たつきちゃんとかもちょこちょこ来てたらいいな。

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