00部屋その六

□獣のしつけ方
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 触れたい、とただ思った。
 斬りたい、じゃなくて、触れたい、と。
 そのしなやかな体に、艶やかな髪に、白い肌に、ただただ触れてみたいと。
 それは衝動で、欲求のようなものだった。
 だが、俺が伸ばした手を、女はいとも簡単に振り払ってみせた。
「おやめなさい、更木隊長」
 俺の口の中が唾液で湿った。そうこなくっちゃならねぇ。簡単に終わっちゃ面白くない、殺し合いと同じだ。
 この女は強い。そんな言葉が頭の中で鳴り響く。
 力づくでねじ伏せるまでだ。
 剣を抜いて、切っ先を女に向けた。すると女は微笑んで、その先にそっと柔らかそうな手を載せた。
「貴方と戦うつもりなどありませんよ、更木隊長」
「じゃあ、」
「触りたいのなら、一言言ってください」
「……そしたら、テメェは触らせてくれるのか?」
「そうですね……まずは、掌と掌を重ねる程度なら」
 その言葉に、俺は躊躇いながらも剣を腰に収めた。それから、代わりのように手を伸ばす。同じようにふっくらと伸びる女の腕は白くて瑞々しく、硬く乾いた俺の腕とは、全然違う物のようだった。
「どういうつもりだ?」
 整えられた爪の表面を、ぎざぎざの自分のそれでなぞる。それでも相手の爪は傷付かない。それはまるで、女自身の高潔さの象徴のように。
「いえ、別にこれといった理由は」
 女の指が俺の指に絡んで、そっと、掌を握り締められる。
「ただ、貴方が人であることを確かめたかっただけかもしれません」







捏造万歳。卯ノ花隊長は最強。

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