00部屋その六

□あと一歩、はまだ待って
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※恋→←ルキ、一織、修→←乱、京→←七、吉良桃、萩勇
※女性のみ






「ちょっと聴いたわよ織姫、あんた一護にプレゼント買ってもらったんだって?」
 女性死神陣+αで繰り出した、ある日のお茶会のこと。
 カシスショコラケーキを食べていた松本副隊長が、ふふふと笑いながら井上の肩を叩いた。
「痛いですよ、乱菊さん!」
 困った、などと言いながらも、井上は嬉しそうな笑顔を浮かべている。松本副隊長も同じように楽しそうに、「で、何貰ったの?」と大きく身を乗り出した。
「アクセサリー? それとも雑貨?」
「あ……これです」
 言いながら井上が取り出したのは、胸元に付けていたコサージュだ。大きな水色のそれは、井上が常に身に着けているヘアピンを思い起こさせる。
「似合うじゃない! やるわね、一護」
 バシン、ともう一度松本副隊長が肩を叩くから、井上が痛いと声を上げる。すると、その正面に座っていた虎鉄副隊長が、「でも」とオレンジプリンをつつきながら言った。
「彼、まだ学生ですよね? どうやってお金を?」
「あ、黒崎くん、今バイトしてるんです」
「なるほど……」
「プレゼントと言えば、勇音も何か貰ったって言ってたわよね? 何だっけ?」
「萩堂さんにですか? えっと……着物です」
「着物!?」
 信じられない、と雛森副隊長が声を上げる。やるじゃない、と松本副隊長が笑った。
「どんなの?」
「ほら、私って背が高いから、特注で作ってもらわないとなかなか可愛い柄のがないんですよ。それを彼、わざわざ注文してくれて……」
「伊達男はやることが違うわねえ」
「勇音さん、今度着て来てくださいよ!」
「ええ!?」
「私も気になりますね」
「伊勢副隊長まで!」
 もう、と視線を泳がせる虎鉄副隊長の顔は真っ赤だ。私は萩堂八席の姿を頭に思い浮かべ、成程、と頷いた。確かに詳しそうだ。……何処かの誰かさんよりは。
「そう言えば、私も吉良君にプレゼント貰ったんです」
「雛森、あんたまで?」
「えへへ……ブックカバーって知ってますか? 現世で流行ってるらしいんですけど」
 これです、と雛森副隊長が巾着から本を取り出した。現世の本らしく、背表紙が付いている。そして、それを覆っているのは、市松模様のプラスチックだ。
「吉良君、現世に任務で行った時に私にあげようって思ったらしくて……。珍しく、衝動買いしちゃったって」
「まったく、見せつけてくれるわねえ」
「ところで雛森さん、その本は?」
「これですか? これ、現世の異国の詩人の詩集です。すっごくロマンティックで気に入ってるんですけど……よければまた、伊勢副隊長にも貸しましょうか?」
「ええ、是非お願い。雛森さんが選ぶ本にははずれがないから」
「そんなこと言われたら困りますよ」
 ギュッと本を胸に抱く雛森副隊長は、見るからに幸せそうだ。
「みんな良いわね〜、幸せそうで」
 そう声を上げたのは、松本副隊長だった。
「みんなどんどん良い男見付けちゃって。あたしも誰か見つけよっかな〜……たとえば、隊長とか」
「乱菊さん、日番谷君は駄目ですよ!」
「何よ雛森、あんたには吉良がいるじゃない」
「それでも駄目なものは駄目なんです!」
「というか乱菊さん、それって犯罪ですよ?」
「犯罪じゃないわよ! 隊長だってり〜っぱな大人よ? あたしのおっぱい押し付けても動じないんだから」
「それは慣れたんですよ、逆セクハラに」
「セクハラなんかじゃないわよ、サービスよサービス」
 ぶう、と唇を尖らせ松本副隊長の顔が机に沈む。あーあ、とため息をつく松本副隊長の隣で、でも、と伊勢副隊長が首を傾げた。
「乱菊さん、檜佐木副隊長と付き合ってるわけじゃないんですか?」
「違うわよ。修兵とはただの飲み友達! あたしがほら……色々あって凹んでるとき、修兵ったら色々と気ぃ遣ってくれたでしょ? だから最近よく一緒に出掛けるのよ。現世で買い物するときとかも、結構修兵ってセンス良いし。器用貧乏って言うの?」
 私が思うに、それは付き合っていると思うのだが。芽生えたそんな言葉を押し殺して、私は松本副隊長の惚気を静聴する。
「あたしがちゃんと料理しないからって、修兵ったら時々料理までしてくれんのよ? あたしもついつい当たり前になっちゃって、修兵から連絡がないと心配になるのよね〜。それで様子身に行ったら、大体死にかけてんの。瀞霊廷通信の編集長って、鬼みたいに忙しいのね。九番隊員は大体死んでるから、結局あたしが家まで連れ帰ってあげることになって……。なんかもう、腐れ縁になりそう」
「……それ、付き合ってないんですか?」
「ないわよ? 修兵もヘタレよね〜。あんだけ忙しかったら餓えてるはずなのに、あたしが酔っていようが恩感じていようが何もしないんだもん」
「でも、乱菊さんはその気がなかったら断りますよね?」
「当たり前でしょ。だからこそ、早く手ぇ出しなさいよって感じ。嫌だったらとっくに放ったらかしてるわよ」
「……乱菊さんから何かするとかは?」
「できるわけないでしょ! 勘違いだったら恥ずかしいし!」
 勘違いも何も、檜佐木副隊長が松本副隊長に長年憧れていることは周知の事実だ。知らぬは本人ばかりか、と思いながら私は密かにため息をつく。相談相手の恋次の頭痛の種の解決法は、こんなに近くに転がっているというのに。檜佐木副隊長はすぐに行動に移した方が良い。
「そういえば織姫、あんた一護とはそこらへんどうなの? あいつ奥手なんじゃない?」
「それは……あ、手は繋ぎました!」
「それ以上は?」
「それ以上はまだ……。て言うか、よく考えたら、ハグとかってもう何度かしてるかも」
「それは付き合う前でしょ。あんたが攫われたとき」
「……あはは」
「そのくらいにしてくださいよ、乱菊さん」
「何よぉ、七緒。あ、あんたはどうなの?」
「はい?」
「京楽隊長と何かあった?」
 自分の話はここまで、とばかりにぐいと身を乗り出す松本副隊長。その頭を、伊勢副隊長は迷いなく叩いた。
「何かある方が怖いでしょう?」
「そんなことないって。だってあんた、毎年ものすごいプレゼント貰ってるじゃない。現世のドレスとか、指輪とか」
「そんなもの貰ってるんですか!?」
「サイズがピッタリなのが逆に怖いわよね〜」
「乱菊さん! ……あれは家の箪笥の中に眠ってます。時々洗いに出しますけど」
「着たりしないの?」
「どこで着るんですか」
「京楽隊長の家に行くときとか」
「……私は、あの人の家に行ったことありませんよ」
「ええ!? そうなの!?」
「本当ですか!?」
 信じられない、と言いたげに他のメンバーがのけぞる。どうやら全員が相手の家に行った経験を持っているようだ。そう考えてみれば、偶然なのか、下級であれ貴族出身の男性を伴侶としている男性の率が高い。松本副隊長だけは、自分の家に相手が来る形のようだが。死神の恋愛事情はなかなか大変だ。何せ、下級の死神では自分の家など持てないのだから。いや、副隊長格や隊長格になっても、家を持たない者は多い。松本副隊長に家があるのは、私物が多すぎて寮に置けないからだろう。
 眼鏡を押し上げて、伊勢副隊長はため息をつく。
「何の用で行くんですか」
「呼ばれたりしないの?」
「ありませんね。……大体、私と隊長はただの上司と部下です。そんなことありませんっ!」
「何もないのに指輪なんてあげないわよ……」
 あんたも頑固ね、と松本副隊長は肩を竦めて天井を振り仰いだ。
「京楽隊長も、つまらない意地なんか張ってないで早く既成事実作っちゃえばいいのに」
「乱菊さん……!」
 きわどい言葉に、虎鉄隊長が声を上げる。私の体も思わず固まり、井上も真っ赤になっていた。そんな中、「でも」と雛森副隊長が口を挟む。
「軽薄な男性が本命だけには奥手って、少女漫画の王道じゃないですか?」
「あ〜、確かに」
「人の話で盛り上がらないでください!」
「七緒、あんたの方から迫っちゃえばいいのよ。『実は私、隊長のことを思うと寝ても覚めてもいられなくて……』とか」
「その言葉、きっちり乱菊さんにお返ししますよ」
 眼鏡を押し上げた伊勢副隊長が、真っ赤になった顔を隠す。どっちもどっちですよ、と虎鉄副隊長が口を挟むと、二人が俯いて押し黙った。
 今しかない。
 その隙を狙って、「では」と私は腰を上げた。
「用があるので、私はこれで」
「用事? 何よ朽木、あんたもデート?」
「いえ、ちょっとした用事です。……昔遊んだ場所に、久し振りに行ってみようかと」
 ですので、と私は頭を下げた。
「今日はこれで失礼致します」





 自分が食べた白玉あんみつパフェの代金だけ置いて店を出た私は、今から一緒に流魂街へと向かう恋次の顔を思い出した。
「デート……か」
 向こうは、どう思っているのだろう。そんなことを思って、らしくないなと独りで微笑む。
 そう思うのは浮かれ過ぎかと思う気持ちと、そうだったら良いなと思う気持ち。恋次にとって、今日一緒に出掛けることはどういう意味を持つのだろうとか、そういうふとした考え。
 恥ずかしいけれど、それは同時に心地良かった。
「そうならいいのに、」
 呟いて、私は向こうに見える人影に駆け寄る。


「恋次!」


 あと一歩、私たちが踏み出すまで、あとどれくらい?









幼馴染以上恋人未満な恋ルキ+女性陣が書きたくて。吉良桃なのは仕様です。別に日桃も好きなんですけどね!
微妙な関係が好きです。さり気なく京→←七がお気に入り。

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